らくえんSS 「夜の風景」

カントク「待つのだ、諸君」
 
帰り支度を始めた矢先に、カントクがそう言ってきた。
どうせろくな事では無いだろうと想像は付いたので、誰も待たなかった。
 
僕「じゃ、おつです」
杏「お先に失礼します」
可憐「おつ」
マーキー「おつです」
カントク「ちょっと待て、諸君!」
 
誰も待たない。 それはそうだろう。 考えても見て欲しい。 泥棒が警官に「待て!」と言われて待ったためしがあっただろうか。 僕は知らない。
なので無視。 僕らは泥棒ではないし、カントクも警官ではないが、とにかく無視。
 
杏「んーー。 もう秋だね。 夜はだいぶ涼しくなってきたよ」
僕「そうだな〜。 っていっても、昼 外に出ないから季節感が沸いてこないなあ」
可憐「安心しな。 そのうち曜日も、日にちだって分からなくなるって」
マーキー「ははは。 笑えませんね」
カントク「ちょっと待たんか! お前ら! 人の話を聞け!」
 
カントクがいきなりキレた。 ごまかし通すのも限界らしい。 著しく面倒だがいた仕方が無い。
僕「なんですカントク。 まだなにか用事でも?」
可憐「ツマラン事だったら蹴るぞ」
美柴先輩が物騒な事を言う。 いつもの事だが。
カントク「はっはっは。 なになに、可憐に蹴られるようなツマラン事ではない」
可憐「いいからとっとと本題を言え。 それを聞いて帰って飯食って風呂はいってそして寝る」
僕「美柴先輩、なんかピリピリしてますね。 満月でしたっけ、今日」
杏「あーーー。 でも満月まではちょっと足りないね、今日のお月様」
マーキー「ツキはツキでも違うツキ、がうっ!」
マーキーがキンテキックされた。 見事にど真ん中ストレートである。 ご婦人の方々には分かっていただけぬ、と言うやつである。
可憐「余計な事をいうな! ・・・で、ツマラン事だったらこうなるけど、OK?」
カントク「はっはっはオーケーオーケー。アイライクユー。 ヅーユーアンダスタン?」
なぜかカタコトの英語で答えるカントク。 分かりやすい例を見せられて動揺したのだろう。 まだマーキーさんは立ち直れないようで「星が、星が、」とつぶやいている。
カントク「あー、ごほん。 では皆に聞いてもらいたいことがある」
僕「なんです?」
カントク「実は・・・、」
杏「実は?」
カントク「急を要する事なのだが・・・」
可憐「それならとっとと言え」
カントクはうむ、と意を決したように頷いた。
そして言った。
 
 
カントク「わし、ぶっちゃけ妹が欲しい」
 
 
・・・・・・
・・・・・・・・
一同「「はあ?」」
カントク「いやね、いままで二十数年生きてきて、わしには何かが足りない気がしていたんだよ。 とても重要な何かが。 いままでそれをずっと探していた。 それで、それでな? 最近杏ちゃんが来てくれるようになっただろう。 で、わし気づいたんよ。 
わしに足りなかったのは、妹であると!
そういうわけで杏ちゃんをわしの妹としてテイクアウ」
可憐「キンテキック」
げしっ!
カントク「はうっ?!」
綺麗にヒットした。 あんまりに綺麗にヒットしたので僕も蹴りたくなってきた。 青春の情動というやつだろうか。 まあ、とりあえず、
僕「キンテキック」
げしっ!
カントク「ぐはっ?!」
こちらも綺麗にヒットした。 前のめりに崩れ落ちるカントク。 さて次は・・・。
僕「杏、お前の番だ!」
杏「えっ? えええええっ?! 私?!」
可憐「一応ターゲットは妹1号だったんだし、蹴りの一発くらいは入れる権利はあると思うよ? このバカがまた同じ過ちを繰り返さない為にも、ほれ、蹴った蹴った」
杏「で、で、でもぉ・・・・・・」
僕「まあこの状態じゃあ蹴るのは忍びないだろうから、踏むだけでも良しっていうか踏め」
杏「うっーーー、・・・・・・わかった。 じゃあ・・・キック」
ふみ。
カントク「あふ?!」
杏「あひゃあぁあぁ?!」
杏に踏まれた途端に殺虫剤にやられたゴ○ブリのごとく暴れるカントク。 びびッた杏は反射的に蹴りをお見舞いしていた。
げしっ! げしっ! げしっ!
カントク「あふぁ? おふ? おふあああ?!」
杏「ひゃああああ! ひいい! うひゃああああ!!」
更に反応するカントク。 さらにびびった杏はパニックになって執拗に蹴り続ける。
げしっ! げしっ! げしっ! げしっ! げしっ! げしっ!
カントク「あーーーぁ、あああああああ〜〜〜〜」
杏「ふええええええええええ〜〜〜!!」
 
可憐「あーー・・・、なんかエグイなこの光景」
僕「・・・・・・ですね」
 
to be continued