感想 施川ユウキ 『鬱ごはん』1巻

 大体の内容「暗黒めいた一人飯」。「モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで・・・」とは『孤独のグルメ』のあまりにも有名な台詞ですが、その精神性は誰でも納得出来るのに、誰しもがその恩恵を得られる訳ではない、という世界の理不尽さを感じるようではまだまだ青い。そんな事を言われているような漫画が、『鬱ごはん』なのです。
 そういう冗句は置いておいてどういう漫画かというのを、就職浪人である鬱野たけしが、一人陰鬱に飯を食う。そういう漫画です。食系漫画ですね。しかし、食と言うと基本的には癒し、あるいは幸せの光景であるべきであるとは思われるでしょうが、それだけしか軸が無いのか、という疑問も付いてまわります。それに対する回答としてこの漫画があると思って差し支えないでしょう。とにかく、飯を食ってるのに陰鬱とした雰囲気。無駄としか言えない思考で食について考え過ぎて裏返ってる感じ。そのせいでご飯があまりにも辛い時間のように感じさせる。ある意味では、施川ユウキ漫画としては正しい漫画ではありまして、見ていて食欲が出るタイプでは全く無い辺りは、絵柄の問題とかもあるにしても、大層な物です。これで飯が美味そうだったら、説得力が無くなるという作品の色において、ちゃんと不味そうに見えるのは得難い事でありましょう。施川せんせ的にはどうなのかとか思いますけども、それゆえに描けてるという事実は忽せには出来ません。
 どうでもいい事はさておかず、やっぱり飯が不味そうな絵が連打されるのは、食系漫画としては大変恐ろしいポテンシャルと言えましょう。牛丼屋の定食物も、ピザも、自分で作る料理も、ぺヤングも、どれも美味しそうに見えない。美味そう漫画は大量に、というか不味そうにしたら基本駄目だから当然のように料理漫画の数だけあります。たぶん、すぐには美味くは描けないという問題はあるものの、そういう負の方向性をきっちり出せるというのは中々出来ない事であり、それが許されるという部分も含めて施川せんせの漫画は大変稀有な存在であるのは疑う余地がありません。そして、絵柄でのあんまり美味しそうじゃないですね! というのに更に無駄としか言えないけど、気持ちは分かる言葉がグダグダと連打されれば、あるいは駄目な日常の中で飯すれば、そりゃ美味そうに見えるわけ無いですよ。
 食と言うとやっぱり幸せの形でありますから、それが出てこないというのはある意味恐怖と言える物があります。きらら4コマクラスタ的に言うと『幸腹グラフィティ』でメシマズ連打され続けたらどうしようもなくてしまうのは目に見えています。萌え萌えなんて出来ません。とても身につまされてそれ所じゃないでしょう。だから、食は幸せに繋がっていないといけない、はずなんですが。
 でも、鬱野たけし本人はそれで鬱々とするというよりは、淡々と食す形であり、その不味そうな感じでも食えないわけじゃないというのが、唯一の心の処方箋として立ち上がってきます。それが食の持つ最後の一葉とでも言うのでしょうか。そんな物が滲み出る漫画。それが『鬱ごはん』なのかもしれません。