感想 クール教信者 『おじょじょじょ』1巻

 大体の内容「お嬢様と変人の恋物語」。地獄巡春は金持ちで高慢なお嬢様である。そも、昔から金に目のくらんだ人々に傅かれてきたがゆえに高慢になるしかない、という悪夢を背負ってきたのでありますが、それゆえに簡単にはその行動を変えられない。それで周りが引いていき、友達など全く出来ずに高校生になってしまいました。しかし、何度目かの転校した先で遭遇した時代錯誤で変人な川柳徒然という男子と、何故か馬が合い、友達になり、そして……。そんなお嬢様と変人の恋物語。それが『おじょじょじょ』なのです!
 この巻では、友達になり、そして恋人になるまでが綴られておりまして、つまり恋人になってからというのはほんのりとしかないのですが、恋愛物は恋人になるまでが一つのボーダーとして存在する訳で、そこをどうするか、が大体の場合その漫画の駆動系となる物です。しかし『おじょじょじょ』は至極あっさりとこの巻の最後の方でそこを越えてしまいます。そんなに速攻片付けて今後大丈夫なんですか!? と思ったりするものの、同作者の『旦那が何を言っているかわからない件』ではその部分をさらっと無しで進める技量のあるクール教信者せんせでありますぞ。その告白部分に到達するまでの時間は希薄では全然無く、むしろ濃密であったりもするので、そこに至る事についての心の準備はしてきたッ! だが嬉しい気分になるぜッ!! というおせっかい焼きの台詞が自然と出てくるくらい、この二人が恋仲になるのはいいなあ、と思わせてくれます。そして、そこに至るまでがいい味わいだからゆえに、その先がどうなっていくのかも次第に気になる様式であり、そういう意味で先が大変楽しみだったりします。ある意味、最大のハードル、告白を越えたのに、その先も気になるというのは、道中が快適で心地良かったからですし、先例もあるので、安心している部分があるからでしょうか。
 実際の所、春さんも徒然も、人から若干疎まれている、というのがこの二人の付き合いに影響があります。どちらも友達いない勢で、なのに二人だと気が合う、という流れであります。その流れなので、周りからは二人とも良いようには言われてない、という描写、台詞もいくらかあり、でも、それでも二人は上手くやっているのがこの漫画の良さとなっている、と言えますし、それがゆえに二人は仲良くならざるを得なかった、とも言えたりします。この辺の、全体的な夢物語な雰囲気を持つ部分があるクール教信者漫画の、現実味に対するアンサーめいた部分は、他の単行本作とはまた違う雰囲気であったりもします。しっかり批判意見はある、というが見せられているからこそ、二人の仲というのがいいなあ、と素直に思わせてくれる。あるいは、周りの評価なんて、って思わせてくれる。それもまた夢物語ではあるんですが、でもあっていいだろ、漫画の中だぞ。ってしゃっ面はいつも通りで安心してしまいます。この、物語世界の登場人物に対する愛情というか、辛い事もあるだろうけど、辛い事ばかりさせたくない、というのは、見ている方としては安心材料ですよ。こういうのがあってもいいじゃん、とすら思います。そういう部分を、辛い部分もありーのでしっかり見せてくるのがクール教信者せんせのテクい所だよなあ。
 さておき。
 春さんの気持ち方向、心方向はこの漫画の視点、主軸がそっちなので分かりやすく、ゆえにやっぱり女の子がドギマギするのって可愛いよなあ、という感想を抱くぐらいにはこっちに強く影響してくるんですが、対して徒然の方は良く分からない。視点がそっちに向かず、且つ基本的に無口というもあって本当に何を考えているのか分からない――視点が春さん主体だからこそ当然、春さんからして徒然が何を考えているのか分からない、になりますが――んですが、それゆえにたまに自己主張、特に春さんが徒然に恋心を持っていると気付く回なんかでは、強烈に感じ入らされます。これで既にかなりテクいんですがそれでも、やっぱりなんだか分からんなあ、と思う部分を考慮したのか、単行本化にあたって、徒然主体の描き下ろしが! それを加味する事により、徒然にとって春さんがどういう存在なのか、というのが理解出来る仕儀となっております。ますますテクい! 特に完全描き下ろしのゴルフ回は、こっちは春さん主体ではありますが、それでも二人の仲というのがどうなっているのか、が見えてきて素晴らしかったですよ。漫画が上手いという評をたまに聞くクール教信者せんせの上手さを実に実感出来るのでした。
 どれ位続くか未知数な漫画ではありますが、つとつと着いていくにしくはなし、な漫画であります。
 とかなんとか。