感想 木々津克久 『名探偵マーニー』5巻

 大体の内容「マーニー、なんか大忙しじゃね?」。基本的に一話で一つの依頼をこなす形であるがゆえに、ここまで巻が続くと学生やってる時間より探偵やってる時間の方が長いんじゃねえか、という錯覚に陥ってしまいます。この漫画で授業風景が描かれる公算がほぼ無いので、どうしてもそう見えるんですよね。とはいえ、授業風景が見たいのか、と言われると全くそんな事は無い辺り、木々津せんせと我々とではwin-winの関係が構築されているという戯言がふわりと湧いてきたりも。そんなマーニー大忙しに見えるし、実際そうである側面も強いのが、『名探偵マーニー』5巻なのです。
 それにしても、この漫画の扱う事件というのの幅、というのがむしろお話の名探偵よりも広く、深く、であるように思えるようになってきました。元々、現代的な探偵での名探偵であるのがマーニーなのですが、その女子高生だというのに仕事の幅はお化け騒動の解決から結婚詐欺まで広がっておりまして、それも良く解決したなあ、という事件も多くて、話としては闇に葬られるタイプだとは言えども、実績は積んでいるよなあ、と気付かされます。その実績のおかげで、また違う事件に巻き込まれる訳ですけれども。マーニー本人的には、この大変な生活をどう思っているのか、というのは今まで特に描写されておりませんが、とても楽しそうとは見えないけれども辛そうとも言えず、なので程よく仕事と距離を保っているのだろうなあ、と勝手な推察をしたりなど。ちゃんと日当をもらえれば出来る事ならなんでもする、というのがある種安全装置となっているのかしら。
 さておき。
 マーニーの仕事の幅の広がりは、畢竟人間関係の広がりにも付随します。今回の巻の仕事のほぼ全部、今までの巻で積み重なった人間関係からの依頼であり、そういう意味においては大変重層的な人間関係となっております。というか、むしろマーニーが何時から探偵業を始めたのか、という事が気になってくるくらいです。巻数5巻でここまで人間関係が広がるなら、1巻の状態でも、色々と人間関係があったのではないのか。そう思うのです。まあ、今の状態で全く知見の無い人間がぽっと出されて話に絡まれても困るというのもあるんですが、それでもマーニーの仕事し始めは、1巻当初からそれ程離れてなかったのかも、という邪推が生まれます。この辺は“メカニック”との絡みもあるんでしょうかねえ。そういえば、今回は“メカニック”関連無かったなあ。次の巻は多いのか、それともしばらく出てこないのか。
 そういう強敵の存在は特に意識しなくても、やはり木々津漫画という事で、人間の想念の歪さを、殊更大仰にはせず、さらっと見せるテクはいつも通りの健在ぶり。人間は醜いとも、だから美しいとも言わず、ただこういう想念が歪んで、こうなってしまったんだよ。という供し方をされるその様は何時見ても総毛立つ物があります。これだけグロイ心の動き、あるいは清い心の動きを、どちらも特別視してない雰囲気でただ供する。それが木々津味な訳ですが、それゆえにやっぱりこの味は貴重であるなあ、と思わされます。この漫画がどう閉じるのかも含めて、今後も気になる漫画であり続けるでしょう。
 さておき。
 この漫画最大の謎はマーニーと“メカニック”の関係、その過去ですが、次に挙がる謎はマーニーがゆりかちゃんと何故友達でいられるのかですヨネ。ゆりかちゃんがだいぶゲスいのは、意外と近作で明るみに出た事実ではありますが、それが明らかになっても特に友達を止めるとかそういう事はせず、更に4巻でのRMT話みたいになんかヤバイ事してるんじゃあ!? って無報酬で調べたりするんだから、友達甲斐のあるマーニーとしか言いようがありません。今回もやっぱりロハでゆりかちゃんの恋人の行動調べたついでにその潔白も証明したり、ゆりかちゃんが守秘義務をどこまで守るかとどギツい嘘をかまして観察してきても誰にも喋らなかったり、と本当に……。本当にゆりかちゃん……。いつか仲違いするけど仲直りするような話が入ってきそうだなあ、とかなんとか。