感想 カレン・バン、 ガース・エニス 『デッドプール/パニッシャー・キルズ・マーベルユニバース』


デッドプール/パニシャー・キルズ・マーベルユニバース (MARVEL)
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 大体の内容「ヒーローもヴィランも、殺って殺るDEATH!」。この本は二本立てで、前半がマーベル屈指の問題児デッドプールが、後半がマーベル屈指のハードコアパニッシャーが、マーベルの敵も味方も残らずぶっ殺す! というあまりにも血なまぐさい作品群。それが『デッドプール/パニッシャー・キルズ・マーベルユニバース』なのです。
 この本は構成上デップーが先でパニシが後ですが、実際の成立年代はパニシの方が先で、でもパニシ/デップーだと売上的にね? という販促サイドの理屈が透けて見える訳でもありますが、とはいえ実際の所、このパニシのマーベル狩りの方を先にする方が良かったのではないか、というくらいに、デップーキルズはパニシキルズの本歌取りの部分が所々に見らえます。一番はやっぱり弱点が分かりやすいハルク相手ですね。元に戻った所を、という感じで殺っておりました。パニシは元に戻るのを発信機付けて、でデップーは殺されても生き返るからそのまま、というキャラ差はありましたが。
 そして構成上も同じように殺って殺って殺る! な二作ですが、ページ数と時代の絡みもあって、パニシは成立年代が古めゆえにわりとシンプルながらストイックな形で、デップーは後代ゆえにキャラクターの持ち味の絡まりから生まれる重層的な味。パニシは実質的に手を下す場合が多いし、基本的に殺されたら死ぬからわりとギリギリな戦いもありますが、デップーは死なない上に頭に響く奸智もあってそれほど緊迫感が強くない場面が多かったですね。相手の殺され方の緊迫感のが高いというべきでしょうけれども。タスクマスター戦は燃え戦でいい試合に見えて、やはり奸智が勝つ格好だったしなあ。
 更に、パニシとデップーには最大の違いがあります。そう、“第四の壁”です。演劇用語――左右と奥の三つの壁の他に、客と演者の間にある演劇的な壁のこととされます。――である元の意味から派生してデップーの特徴として屹立するこれが、パニシキルズと大きく内容を違わせる結果になります。パニシキルズは殺して、殺して、殺し抜いていく過程でストイックが立ち上がり、最後には当然とも言える殺しぬいて残った最後のヒーローを殺す展開になりますが、デップーは殺して、殺して、殺し抜いて、行き着いた先がそこ!? という驚愕の位置まで行ってしまいます。最後の相手を殺してもまだ先がある、という無茶苦茶さ加減がデップーキルズの無茶苦茶さを印象づけます。ここまで“第四の壁”を使う道筋って、絶対グルグル目の発想だろ……。
 さておき。
 個人的に良かったシーンを思い起こすと、デップーキルズは先にも書きましたがVSタスクマスター。タスクマスターらしい動きが随所に見れるかっこいい戦い、のわりとあっけない幕切れと、緩急が良かったです。デップーの動きをタスクマスターがその技能ですぐに同じように動く、というのが見れて、タスクマスターかっこいいなあ、と思いましたよ。コピーキャラとしては能力値的には飛びぬけてないけど、戦ったそばから同じ動きを出来るというのは見せ方次第でかっこよくなるんだなあ、と。
 パニシキルズの方はわりとあっさり決着がつくんでベストバウト的なのはないんですが、パニシの復讐の虚しさが色濃くなるVSウルヴァリンが特徴的でしょうか。すまないですむのか! というのは確かにそうなんだけど、でもウルヴァリンからするとそれは反転してパニシにも言えることで、それが徐々に積っての最後、と考えるとなんとも苦い物があります。ああ、こうやって考えてみると、成程デップーのが後だとふわふわし過ぎだな! パニシで落とすのがちゃんと腑に落ちるんだ。成程なあ。
 さておき、アメコミの翻訳を買うのは初めての経験でしたが、あれですね、高いけど、満足度が高いと言うか、たくさんアメコミがある中の寄りぬきだからこその質とネタ度のいい所を集められて得した感じがありますです。今度は『ヒットマン』とか買ってみるかなあ。
 とかなんとか。