感想 山口貴由 『衛府の七忍』2巻


山口貴由 衛府の七忍 2
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「次々現れる、怨身忍者!」。ということで今回の巻で三人の怨身忍者が、一人は1巻の段階で半分くらい話がありましたが、出る訳ですが、その内の一人である波裸羅がインパクト強過ぎて他の二人の話を忘れると言う亜空の展開をもってくるのが、『衛府の七忍』2巻なのです。
 波裸羅、読みはハララ。これを聞いてガタッとなるのは昔からの山口貴由てんてーファンでありましょうか。そうです、ハララ様です。『エグゾスカル零』でもガタッとさせたこの名前。これがまたぞろ出てきた訳ですよ。そして今回は、七忍の四番目にその名前がでてくることになります。そして、衛府の七忍の内に入るかと思われたらば、徳川方に今の所ついているというこれもまた亜空の展開。でもそろそろ筋を変えるのも当然ではありまして、成程巧みじゃねーのって跡部顔になる所です。そのハララの所業も、実際修羅のごときところがあり、悟りを得ようとする尼に対して、

 と言うのだからもういきなり最高かよ……! です。その後は大立ち回りからの言行一致でありまして、ゆえに今回もハララ様と言わざるを得ないのがお分かりになられるでしょうか。その後の活躍、そしてカクゴと邂逅せん、しかも敵同士として! というところで今回の巻が終わってしまいます。このカクゴとハララ様とはどういう関係性になるのか。そもそもどういう時間の流れでの話なのか。そういうのが出てくるので本当に楽しくて困ります。相変わらずハララ様に頼りしてるのかよ! という部分も思わなくもないんですが、毎度それだけのハララ様を出してくるなら、応! ってなる以外に選択肢が無いんですヨネ。そうくるなら、きてくれ! ってなるしかないという。
 さておき。
 一応、1巻からの引き続きの震鬼編と、この巻で紹介が終わる雪鬼編も入っております。どちらも壮絶な内容です。震鬼編は開幕釜茹での刑で残酷無残。雪鬼編はちょっとした『ゴールデンカムイ』とSUMOUでハッスル! な内容ながらやっぱり残酷無残。なんですが、どっちも〆は妙な、単純な明るさとは違う、彩度が明るいと言うか、さっきの黒に比べれば、という色合いで、変な話清々しさすら感じさせるものです。震鬼である忘八の憐の小指ぶっちぎりからの軽快なパキャーン。雪鬼である六花の復讐をとげた後の「何だかかなしいね」の味わい。ともに、明るさで言えば暗いのだけれど、でも先の暗さに比べれば仄かに明るく“見える”色合い。これがなんだか奇妙に心に残るものがありまして、この漫画の色見を単なる復讐譚というには違うものにしています。
 この色合い、明るいようで暗いようで、という部分はハララ様にもちゃんとありまして、それが異端なるその出生の話。そこで生まれついての、あるいはそれからすぐに、という怨身忍者であることが逸話として語られますが、それがゆえに、人に対して、例えば先の尼に対する台詞とその後の行動のような、ある種一線を引いているのではないか、と推測されて、でもそれに対する行動がやっぱり先の尼に台詞とその後の行動になる訳で、そういう意味では色合いがやっぱり変な明るみがあるのだなあ、という印象を持ってしまいます。
 さておき。
 この辺のアトモスフィアは、山口貴由てんてーという漫画家の固有スキルというべきかもしれません。比較的暗い作風な山口てんてーにあって、偶に読者サービス的に明るく見せる手筋というのが、『覚悟のススメ』での罪子という存在とか、今までもありましたが、『シグルイ』以降そのサービス的な部分が筋を変えたというか、天然でやってることがサービスになるという読者と作者の亜空の共犯関係になっていたと思うんですよ。『シグルイ』の我々の楽しみ方とか、まったくそういう部類でありましたし。そこに、今回は明確にサービスとして軽さをいれる、あるいは雰囲気を軽くするというのをやっているように、勝手に感じているのです。そう言う意味においては、今の山口貴由てんてーは漫画家としての質というのがまた変わってきている、そういう段階にあるのかも、という戯れ事を言ってしまいたくなるのです。そういう山口てんてーを、もっと皆見るといいです。そしてこの話がちゃんと想定されたオチまで突き進むのを見るといいです。というか、俺が見たいから皆読め! というだけです。
 とかなんとか。