ネタバレ感想 山口貴由 『衛府の七忍』8巻

衛府の七忍 8 (チャンピオンREDコミックス)
衛府の七忍 8 (チャンピオンREDコミックス)

 大体の内容「壬生狼、江戸時代を往く!」。その時代にいないのが当然である沖田総司だから、もしかするとこの戦いで……。などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。という展開になる魔剣豪奇譚、沖田総司編の終了と、血生臭い閑話を挟んでからの新章、雷鬼編の開幕となるのが、『衛府の七忍』8巻の大まかな展開なのです。
 まず魔剣豪奇譚。お互いの得意を見せないで始まった一戦ですが、きちんと自分の強みで押してくる展開になります。つまり沖田の神速の突きと、谷の豪断の斬りが、です。
 とはいえ、宗矩にきっちり見切られたというケチが付いている沖田の突き。それが生半に使って通じるか? 通じねえだろ! ということで、山口貴由先生はここで沖田を、そして翻って己を追い込んできます。突きに対して更なる追い打ちをする、三段突きの妙手を見せて、しかし怨身忍者の回復力では、その素直に美しい一撃は効果なし! としてきます。自身の奥の手に近い技を使って勝てぬ! ならばどうする! というので、山口貴由先生が追い込んできます!
 一方その頃、柳生宗矩は陰流の技術が、兜割りが鬼を倒すための技術であった! となっていました*1。しかし、侍としての肝心要、刀を体ごとで止められ、万事休す。この一帯を破壊してでも、というところで現れるのが、以前もチラリとでて我々を混乱させた、神州無敵、桃太郎! ここからの神州無敵の強者の振る舞いが実際尋常ではない。炎浴びても大丈夫、ってあなたねえ。無茶でしょ!
 これは、要所要所で宗矩がお体が! と言っても、安泰じゃ、で返してくるんですが、でもそれ本当に安泰ですか?! って場面でもあり、でも安泰じゃ、と言っているので大丈夫なのだ。という絵で迫ってくる為、超強引に納得させられる、という強者以外が出来ない振る舞いをぶっこんできます。
 前回の、それはそれででしたが、出番ではまだぼうとしていた人物像が、とんでもない解像度で明確にされた、というのと同時に、今後怨身忍者が戦う相手としても解像度が上がった、というので、宗矩の件が全く無駄のない挿話として立ち上がるので、脱帽しきりです。桃太郎もですが、十兵衛ももしかしたら出る? というのも目配せきっちりです。すげえ。
 さておき。
 三段突きが通じない、となった沖田。撤退を提案されるものの、これを蹴り、この場で倒す! と決意し、倒す為の算段が付くんですが、しかしそれは超危険! ちょっとした爆圧装甲な自身が身に着ける外骨格の爆風で、谷の豪断の斬撃の正体、豪断の剣風をいなして接近し、抵抗を付けた菊一文字で相手の体の一部を抜き取る! まででもやはり倒せないんですが、もう一段策あり! その穴に鉄砲をぶっ刺して、その中にある爆薬に、弾を撃つ!
 もう完全に死中に活なんて段階ではない、死ぬ方が大いに可能性のある、死中に死ぬ覚悟で、谷を爆殺することに成功するのでした。実際問題、谷に横腹から刺されたんですが、病にあって痩せていた過去が奏功し、皮一枚ですんだ、というので、その辺の運の方も皮一枚だった。という死闘でした。
 さておき話は逸れます。
 7巻感想<ネタバレ感想 山口貴由 『衛府の七忍』7巻 - オタわむれ 日々是戯言也blog>でもちらりと気になった部分、江戸幕府が罪もない人を殺した件について沖田はどう思うか、怨身忍者の怒りに対しては、という部分の回答も、地味にちゃんとしてくれたのが大変嬉しかったりしました。勝手に見てただけですが、そこちゃんと回答してくれるから山口先生は真摯な方です。どういう回答だったか、というのは各々で確認してください。
 さておき。
 この巻のメインは魔剣豪奇譚。
 などと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。
 という言葉がまたしても出ますが、それはさておき、この巻の印象は、それまであったものが最後に一話分だけある怨身忍者雷鬼の常の域を超えた尊き情感をもって、一気に吹き飛ばされます。内容としては、真田十勇士が、弟分と呼ぶ黒須京馬に、その黒須の命と真田家を安泰にする為に自分たちを投げ出す、と書くと中々ありものなんですが、ここをただのありものに、山口先生がする訳ないだろー! と某アリステラ顔になるくらいには、情面でも驚面でもとんでもないのをぶっこんできます。
 情の面では、先に書いたように自分たちの命を持って、黒須を助けよう、としている部分ですが、実際の所、そうする為に来た、とか、ありがとう、とか、そういう言葉は交わされません。関ケ原の合戦で東西に分かれた真田兄弟。そしてそれぞれ兄と弟についた黒須と真田十勇士。だからこそ、そういう言葉を交わしてしまえば、相手に、あるいは真田家に大変な危機が訪れる。だから、どちらもそういうことは全く言わない。でも、話の端々で出てくる挿話や仕草で、真田十勇士が黒須をどう思っているか、黒須が真田十勇士をどう思っているのか。これを語ることなく、見せてくるのです。だからこそ、どう思っているのか、というのを読者に勝手に想起させてくる。この情面の深さたるや!
 そしてもう一方、驚の面。これはもう無茶苦茶なんですが、黒須は真田十勇士を大忍法おのごろにて、と宣言します。このおのごろが、まあ無茶苦茶なんですよ。二度言うくらい無茶苦茶。これで三度だ。
 さておき、どう無茶苦茶なのか、というのは、そのおのごろというのが、真田十勇士と黒須が合体し一体の忍者になる、というものなのです。自分で書いていて意味不明なんですが、本当に、真田十勇士の身体の部分と、黒須の身体が、合一するというものなのです。この巻では、その端緒、黒須が解体され、真田十勇士の部分が、というところで終わっているんですが、これ成功してどうなるんだ? と若干以上の惑乱をぶっこまれます。真田十勇士の長所全てを備えた、超忍者、あるいは怨身忍者が生まれる、ということなのでしょうか。いやそもそも合体ってお前! 案件です。これが後どうなるかさっぱり分からんにも程があるので早急に9巻が出て欲しいところですよ! 最近、次に続くところが良過ぎな漫画にぶち当たり過ぎ案件! 9巻よ、早く!
 さておき。
 ここで、情の面からすると自分を助ける為ちゃうやん! そう思っていた時期が俺にもありました。しかし、感想書いてたら、成程そうかと。つまり、おのごろで合体して、ろくでもない戦いに身を投じることになる、というのをあの対面の中で受け入れた、という視点を持ってたのです。あそこで宣言する忍術次第で、単に真田十勇士を片付けて生きるという道もあったけど、わりと早期にその辺の腹は決まっていたっぽい。それが穴山小助の涙に繋がっているのかなあ、とか。間違いなく地獄なのに、来てくれるんだ、というのが。そう考えると、更なる大きな情感がそこにある。エモい。
 などと、書いて、長くなったこの項を終えたいと思います。9巻早く!

その9巻感想は

hanhans.hatenablog.com

*1:ここで挿話される十兵衛のほんの少しの出番なのに妙に印象に残りますが、それはさておき。