大体の内容「壬生狼、大江戸を舞う!」。既に積み上げている沖田総司株を上げるのを忘れることなく、しかしちゃんと対戦相手の七忍の人物像もきっちり立ち上げて、これどっちが勝つのー!? をぶっこんでくる山口貴由先生の技が冴えわたり過ぎて、ずんばらりん、と切り捨てられるのが、『衛府の七忍』七巻なのです。
この巻の内容は畢竟、沖田総司対霓鬼に集約されます。一応、柳生宗矩も俎上には上がりますし、宗矩も鬼と一戦交えますし、沖田総司の突きをいなしたというので十分な強さ認定も済んでいて、でもこれ勝てるのー!? というのもぶっこんできますが、でもやっぱり沖田総司対霓鬼が肝です。ここに、この漫画の集約点が引き絞られています。
その為に山口貴由先生は、沖田総司のこの地に居る意味、この時代にいる意味をねつ造していきます。そもそも時間超越した理由がからして全くの理由無しですから、そこでこの江戸この時代に居る理由も作り上げなければなりません。そこで沖田総司が辿り着いたこの時代での存在証明は、これから三百年の平和を謳歌するこの時代の素晴らしさ、という地点です。自分のいた時代での過去を変えてはならない、という心情と、好いた女性を殺されたという二つの理由で、沖田総司は鬼に挑みます。
でも、そこに対する反撃力である霓鬼の話が、沖田総司の話にちまちまとその素地を見せつつ、しかしほぼ一話で積み上がってきます。試し斬りの家系に生まれ、その道を進んでいた谷衛成が、遺物の銅剣で試し斬りをした時に今まで殺されてきた者たちの恨みが集まり、鬼として顕現します。これによって、どちらが勝つか全く見えない死合、というのが立ち上がってくるのです。
前回の魔剣豪奇譚、つまり宮本武蔵編では宮本武蔵の人物像が立ち上がりに立ち上がり過ぎて、どういう戦いになるのか全く読めない、からの展開によってこの漫画の格を一段上げることになった訳ですが、それでもあの時はここで宮本武蔵は死なない、という歴史由来の安心がありました。この漫画がそう言う部分での歴史は覆さない、という所作に出ることも分かった記念すべき点なのですが、それを基本に考えると沖田総司は未来から来てねーから! なので大変困ることにもなるのです。つまり、人知れず過去で死んでも誰も分からない、ということです。これと、沖田総司の憧れた江戸時代、その裏の声によって立つ霓鬼、あるいは衛府の七忍の存在というのが、沖田総司には耐えられないのでは? という疑問点*1と合わせて、強い弱い抜きにした部分での沖田総司が勝てるの!? 感が醸成されているのです。
それに対して谷衛成話は、沖田総司のそれに対してほぼ一話での立ち上げと展開です。ですが、その内容は濃いとしか言えないものです。試し斬りの家系に生まれと語られ、その剛腕と凄腕ぶりを見せつけつつ、その仕事に倦んでいるように、あくまでようにですが、見せ、そしてかなり無体な試し斬り要請と謎の古代銅剣で何故か霓鬼に、というのをがっつりと一話。この一話対壬生狼の八話の戦い、ともいえる状況です。というか、こんなに濃いのに一話! と驚愕しきりでしたよ。時間が濃密というか。堪らん。
さておき。
そんな互いの積み重ねによって相対する壬生狼と霓鬼。瞬速の突き対豪断の剣。初手はお互いを計るかのように動きますが、さて両者の本領が発揮されたら、一体どういう剣劇が巻き起こるのか。ついでに宗矩大丈夫か。そんな注目をしていたらこの巻が終わるというそしてこの諦念……。続き、はよ……。とつぶやきつつ、この感想を終えることとします。
*1:壬生狼としての経験によって、そういう裏があっても、という描写はありますが。