ネタバレ感想 山口貴由 『衛府の七忍』9巻

衛府の七忍 9 (チャンピオンREDコミックス)
衛府の七忍 9 (チャンピオンREDコミックス)

 大体の内容「成れり、忍法おのごろ!」。ということで空前絶後の合体忍術おのごろが成り、雷鬼が生まれるのが、『衛府の七忍』9巻の概要です。
 一体どういう風に合体するのか、と思っていた忍法おのごろ、わりと直接に剥がしてくっつけるというのでいきなり度肝を抜かれます。京馬の残骸が残っているし、おのごろ中の映像も腑分け感あるものでした。
 でも、くっついてもすぐ動かない、というある意味当然と言えば当然の欠点にもわりと度肝が抜かれます。そりゃそうなんだけどさあ!? その前に普通に死ぬんでない?! 忍術って便利なのか不便なのか!
 で、その回復期間をどう過ごすか、と言う部分も、とある人物の皮をかぶって、とかなり無茶苦茶だったんですが、その無茶に対して更なる無茶で居場所を露見させたのが、鬼哭隊の魔剣豪、上泉信綱
 といってすぐ浮かばない人が多いかもですが、上泉信綱は、簡単に言ってしまうと新陰流の開祖です。それが柳生に伝わり柳生新陰流になる訳です。
 つまり、8巻で出てた柳生宗矩より確実に年を取っているはずの存在。宗矩の父、石舟斎に新陰流を伝えた人ですからね。
 って、いや、そもそも室町時代の人じゃねえか! なんですが、これが超絶の理由、時の流れからほぼ隔絶されている、で長命となっているというのです。おのごろが無茶とか言ってた時代はとうに過ぎ去ったのです! 時間操作系!
 さておき。
 おのごろ治療期間中についに見つかってしまった京馬。鬼哭隊の訓練施設に連れ込まれ、むごい処刑を行われるのですが、そこでくっついた! となって真田十勇士の忍術が次々に復活からの脱出! という激熱展開をしてきます。
 真田十勇士の特異能力のある、移植された部位の効果が次々に発動! それを活用して危機をかいくぐっていく! というので能力大好きっ子なら垂涎の、特殊能力大連発!
 ある意味都合が大変にいいんですが、それを越える説得力、その部位の人が出来るよー、ってしてくるのが堪りません。それが真田十勇士なら尚更です。
 この、少しずつくっついていって能力が発動出来て、というのがなんとなくメトロイドヴァニアの、能力を得て、道を切り開いていく感じに接合して、その部類が好きな自分には堪らないのです。出来ることが増えていって、超忍者、からの怨身忍者へと変わっていくのです。
 とはいえ、最初のおのごろでは、まだ超忍者が関の山。そこを、時間操作系の上泉信綱との激戦を経て、相討ち! となってからこそが本番なのです。
 そう、おのごろは二回行われるのです。それも、一度目も二度目も、同じ理由を持って。
 その理由とは、好きに生きろ、ということ。忍びとして命を受けて、なんてしなくていい。ただ生きていていいんだと。その峻烈な輝きを持って、生きていて欲しいと。
 当然、忍びとして峻烈に生きたらすぐに死んでしまうだろうことは分かっている。でも、この輝きをここで終わらせる、というのは勘弁ならん。
 それに、結局は8巻で穴山小助が心中を読み涙したように、真田幸村の命である徳川家康の首を取ることを、言われなくてもするだろう。それならそれでいい。それなら、自分たちの力を使って、はじけて欲しい。だからこそ、二度目のおのごろを行い、心臓や血を分け与えた、というのでもうまたしてもエモ案件で困ります。
 自分たちの命を捨ててでも、その峻烈さは残したい。なに、体の幾割かは、一緒なんだ。一緒に戦うんだ。というね。
 ああー!
 エモさが炸裂して壊れそうなのでさておき。
 今回も魔剣豪奇譚があるんですが、それは当然上泉信綱の話。戦地の地獄で時淀みという境地を得た上泉信綱ですが、それは命より重い物を、上泉信綱から奪った、という話の流れが大変うわあ……。という、精神的な重さがある話でした。助けようとした小さな命を、時淀みが奪ってしまうのです。
 相手を助けたい、という心を持っても、それを行うことは出来ない。近づいた者の時を淀ませ、最後には死に至らしめる。だから他人に触れあうことのできず、それでもわざわざ死ぬこともない。それでもある倦みを、しかし剣聖であるがゆえに鬼と戦えることで解消する。
 そんな状態であったのを、京馬との戦いでその峻烈な煌めきを受け、死に際の言葉として、「良きかな…」と満足して死んでいく、というのが、魔剣豪の業の深さを感じて、感情がぐわんぐわんされます。
 さておき。
 しかし、魔剣豪奇譚、作中現在の人物、未来の人物、ときて、次が過去の人物、というふり幅を見せてくれたのが、やはり良かったと言える点でしょうか。現在過去未来は全てやってしまった、ともいえるので、次の魔剣豪がどこから出てくるか、元から予測不能なのにもう一段不能にされてしまいました。
 たぶん、柳生十兵衛が出てくる、という予測はあるんですが、宮本武蔵出してきた。沖田総司出してきた。上泉信綱出してきた。で、柳生十兵衛が出てこないってそりゃないでしょ!? ってなるところなので、絶対出していただきたいところです。
 さておき。
 とうとう七忍は揃いました。この七忍が揃う前に終わったらどうしようかとか思ってましたが、揃ってみると我が強いのが多い! しかいないまである! 連帯とかそういうの全然考えられない! この七忍が一同に会すると、果たしてどうなるのか。そう言う部分を楽しみにしつつ二桁突入! の10巻を待ちたいと思います。