ネタバレ?感想 江島絵里 『対ありでした。 ~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』1巻

対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~  1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
対ありでした。 ~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~ 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 大体の内容。『ゲーミングお嬢様? いえいえ、対あり、です』。お嬢様と格ゲー、ということで大@nani『ゲーミングお嬢様』を想起するような方にこそ読んでいただきたい。そんな格ゲー百合漫画。それが『対ありでした。~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』なのです。
 お嬢様学校、黒美女子学院に、お嬢様になりたくて特待枠で入学した綾さん。しかし、美味しい食べ物うまかっちゃん! という基本ド庶民なので学校にギリギリ馴染めているけど精神が削られておりました。
 そんな綾さんがある日、学院の生徒から白百合さまと呼ばれる女生徒の秘密を知ってしまいます。
 それは、格ゲーマーということ!
 というだけなら、ゲーム基本禁止の学院においては、一方的に弱みを握ったぜ! なのですが、ここで綾さんにも秘密がありました。
 それは、格ゲーマーということ!
 ということで、そこで成り行き対戦することになる綾さんと白百合さま。そこから始まる、二人の秘密の格ゲーライフ! それが『対ありでした。~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』の大体の概要です。
 ワタクシも、この漫画のことを聞いた時は「『ゲーミングお嬢様』!」でしたし、Googleのサジェストで「パクリ」って出るのですが、作者が江島絵里せんせということで、そう簡単い軌は一にはならんやろ、と思っておりました。
 実際、『ゲーミングお嬢様』がゲーオタジャーゴンとオタ格ゲーマー精神をお嬢様にイン! することで新規且つ亜空のギャグ漫画になっているのに対して、こちらはお嬢様がオタ格ゲーマー! そんなあの子が気になるの! ということで、だいぶ精神が違ってきており、お嬢様と格ゲーという取り合わせでこれだけの幅が! というのを見せつけられた格好です。
 その上で更に語れば、対ありにおいて格ゲーの扱いは案外しっかりしています。ノートPCとアケコンを持ってする対戦光景、コンボ的なつなぎで行われる画面の方の動き、良い感じの用語の選択、不慣れな人用適度な解説、そして格ゲーやってないとあまり出てこない案件など、どれをとっても付け焼刃では全くないことを見せつけられます。
 一つ例を挙げるなら、めくりジャンプ攻撃に対する対空の件でしょう。わりとさらっと説明してますが、表落ちっぽいめくりを、きっちり一瞬前歩きからの振り向いてから対空出して咎める、というのは格ゲーマーじゃないとおっ!? とならないとこなんですよ。実際、格ゲーやってない人には何言ってるのか分からなかったと思います。
 そこは話のメインじゃないからさらっと済ますね、という手管もそうですし、知っていればちゃんとそういう動きをしている、と理解出来る絵作りの手練もそうなんですが、とにかく付け焼刃では変にくどくどしくなってしまいそうなとこを、大変軽く済ませているのです。
 といって、全部さらっと済ませているだけ、ということではなく、綾さんの精神にダイレクトアタックだった無意味な昇竜(作中は昇天)で分からせるのとことかは、きっちりとどういう理路でここで綾さんがイラつくのか、というのを描き出してもいるので、これは本当にガチ勢、そうでなかったとしてもかなり本格的な調査をした、というのが透けて見えてくるのです。
 しかし、このバランス感覚は、おそらくガチ勢ですよ……。分からせ昇竜でキレかけのとこで怒ったら負けだ……! って完全に格ゲーマーじゃないと分からない境地です。
 そういう意味では、格ゲー漫画としてはウメハラ漫画以上に入りやすい格ゲー漫画になっている、といってもいいかもしれません。
 ウメハラ漫画もわりと非凡な性能でしたが、こちらは女の子がガチで格ゲーする、というフックとしてはおよそ例の少ない且つ巨大なものがあります。
 それでいてきちんとガチ勢が作っていることも分かる為、格ゲーの息吹というものがどういうものか、分かっているのか! とキャシャリン問いかけに対してもきっちり、これですよ! と出来るだけの仕上がりとなっています。
 そして、それだけで終わらないのが江島絵里という漫画家です。
 終わらないなら、何がある?
 百合です。
 およそ百合をぶち込むことに対してちゅうちょするという精神回路を持たない、百合モンスターというのが個人的な江島絵里先生への評です。
 殺伐魔法少女系&百合とか、おねロリ百合とか、とにかく百合がしたい精神の賜物。それが江島絵里先生です。
 この点に対してもこの漫画はきっちりやろうという意志力を感じます。勝ち続ける意志力くらい感じます。
 とはいえ、1巻から飛ばしてくる、ということは、この漫画のありようからすると違うだろう、というくらいには、まだ百合としてなってはいません。仄かに、何か惹かれる、というだけです。
 だが、それがいい
 綾さんと白百合さまの関係性は、まだ格ゲーを出来る間柄、というだけです。そこでいきなり百合ブーストを仕掛けない。そこがいいんですよ。
 この関係性を、じっくり煮込んで、格ゲーもくんずほぐれつ煮込みに煮込んで、というのがおそらく江島先生の腹のうち。いきなり百合になったら戦いにならない! バトる相手! 仇敵! そしてだからこそいつの間にか生まれる百合! この精神の流れ、どっかの瑞人ラノベで見た!
 その地点を、江島先生は確実に狙っています。ウメハラ漫画をBLとしてみることが可能なのは、そこに戦いを経た因縁が生まれるから。戦いから生まれる感情は、生半なものではない。
 そんな感情、だからこそだろうがっ!!
 ということで、江島先生の百合への飽くなき探究心と、格ゲーへのガチ具合が、この漫画を最終的にかなり尖った漫画にしてしまうのではないか、と今から勝手に老婆の心が出てしまいます。格ゲーと百合は、まだ出会ったことがないんだぞ……!
 ということで、格ゲーと百合がどのような味を出してくるのか。それが大変楽しみになる漫画なのが、『対ありでした。~お嬢様は格闘ゲームなんてしない~』なのです。この巻は4話収録。そして今なら、まだ7月中頃まで5話が見れる。この意味が分かるな?
 とかなんとか。