『「電撃hp」手法の実用性の実証 淫(IN)「二次元ドリームマガジン」のばあい。 あるいは「ファウスト」の打つべき手』

狩田さんの所こちらを見てふーっと、「電撃hpは自社広告だけでやってる。 ということは、電撃hpの手法を使えばうまくいくんだろうか?」という疑問に行き当たり、そこから思考を展開してみたら、表題みたいなことになってしまいました。
めげずに、それではいってみましょう。
まず始めに「電撃hp手法」とはなにか。
それは二つのパターンに分類できます。

  • パターン1:連載の文庫化

これは、以前より他の雑誌でも類のあるケースですが、「電撃hp」の場合は「少数回の掲載に大幅加筆して本にする」というパターンを取り入れています。
通常は、連載している物をまとめて文庫化するわけですが、その場合、「連載を全部持っているから文庫を買わない」という事態が起きることがあります。
これの最もたる例が新城カズマ氏の「マリオン&co.」と異本であります。 これは「雑誌一回分の終わりに大きな“引き”を持ってくる」という形で連載されていましたが、それゆえに一冊の本にすると“引き”が多すぎてうっとおしいという弱点を有していました。 それに上記の「連載の切り抜きがあれば十分」という事が加わり、速攻で絶版になってしまいました。*1
このように、単純に連載をまとめるという手には弱点があります。
それを解決する手段として「電撃hp」が編み出した、というかほとんど偶然発見したのが「大幅加筆」なのです。(補足)
これは、掲載され人気があった物を随時文庫化する事によって、掲載分を「プレ版」として機能させ、また文庫からの読者を「電撃hp」に吸引する事も可能になり*2、最近とみに行われるようになりました。

  • パターン2:短編の多用

ページ埋めというわけでもないでしょうが、「電撃hp」では頻繁に一回だけの掲載な短編が載っています。 もともと短編賞の人の作品を載せる事が主題だったわけですが、やはりこれも最近になって活発になってきました。
短編掲載により新人発掘が行われるわけですが、これはただ書き手の発掘だけにはとどまりません。
新人の短編を多く載せる事により、ライトノベルにとってもうひとつ重要な絵師も多く起用できるのです。 つまり、絵師の発掘にも大きく寄与しているわけです。
その効能に「電撃hp」が自覚的であることは、「短編賞」を常設している現状や、新人絵師の1pイラストが載っていることから見ても明らかです。
そして、この「短編の多用」は「大幅加筆」とも相性が良く、人気が出たと思った時、文庫化は既に始まっていたりします。
 来月にでる「乃木坂春香の秘密」(ISBN:4840228302)なんかは、もろにこのパターンに当てはまります。
短編賞で見つけ、「電撃hp」でプレ版として短編を書き、加筆して文庫化する。 まさしく、「電撃hp方式」の申し子といってもいいでしょう。 本当は「撲殺天使ドクロちゃん」が最初なんですけどね、この方式。
さておき。
そこで思うのが、「他の文芸誌でも、この手を使えるのではないか?」という事なのです。
とらぬ狸のなんとやら、他でもそう上手くいくかいな? な雰囲気があるかもしれませんが、さにあらず。 この方法が「電撃hp」以外でも通用しているのです。
それは、表題にありますように「二次元ドリームマガジン」においてであります。
二次元ドリームマガジン」とはキーワードでもわかるのに一応説明しますが、「オタク向けエロ小説誌」というあまりにも狭くか細くニッチな分野ですが、ここ最近売り上げを伸ばしてきたのか、ノベルだけではなく文庫の方にまで進出してきた、あなどれない―言っちゃいますが―「文芸誌」です。
さらに、ここも「電撃hp」と同じ方式をとっていますが、期限はこちらの方が古いのです。
この雑誌が創刊されたのが2001年末。 その連載が大幅加筆修正されて発売されたのが2002年7月頃。 「パターン1」に関して、「二次マガ」は「電撃hp」の先を行っていたことになります。
また「パターン2」に関しても、初期の頃から新人を募集し、短編を書かせる手法をとっており、2002年後半からそこから出てきた新人著者、新人絵師が出てくるようになりました。 ここでも先を行っているのです。 なんか調べてたら怖くなってきました。
それはさておき、さらに「プレ版」という形に関して言えば去年末より、「エロの冒頭あたりまで、雑誌にて見せる」というまさにエロ小説誌ゆえに可能な方法も出始め、―また、あえていいますが―「文芸誌」の売り方というものがまだまだやり様があること見せ付けてくれています。
前に、どこかで「エロ本方面の成長率が大きく上がってるけど、冷え込んでいる部分もある」という話があったような覚えがありますが、それはおそらく、エロ漫画系統が落ちる中「二次マガ」周辺のエロ小説の成長率がとんでもないことになっているからだ、と思われます。
かように、「文芸誌」と「小説」の売り方というのはまだまだ研究の余地があるのです。
さてさて、話は720度程変わりまして「あるいは」の話。
上のようなパターンに当てはめると、「ファウスト誌」は「パターン1:大幅加筆」は西尾維新の新作にてやっておりますので、今後もいろいろとやってくるでしょうから良いのですが、「パターン2:短編の多用」の方が、一人編集ゆえの弱点か編集長の性格ゆえか、まるでやられていないのが現状です。
確かに、エロゲ方面の人を引っ張ってきた功績はあるかもしれませんが、「ファウスト誌」を読むような人の中から新人を発掘できなければ、この雑誌、ひいてはそこからでるレーベル群の生き残りは難しいと言わざるを得ません。
私としては一刻も早く複数の編集者、または引っ張ってきた人たちによって新人の掘り下げを行われる事をが「ファウスト系」が生き残るために必要だと思います。 ぜひやってもらいたいものであります。
というわけで、以上、異常に長々となりましたが、これにてこの話は終了と相成ります。
ご静聴ありがとうございました。

*1:この難点を解決する手法の、もっとも異端な手が川上稔矛盾都市TOKYO」なのですが、その話は総集編が出版されたあたりにでも。

*2:電撃hp」が単行本扱いなのもこれに拍車をかけます