感想 林トモアキ 『戦闘城砦マスラヲ vol'5 川村ヒデオの帰還』

 大体の内容。「魔眼王川村ヒデオの帰還」。でも、ヒデオの戦いはまだまだ続くんじゃよ。もうちょっとなんてもんじゃなく、たぶん死ぬまでより長く。相方が神だと迂闊に死ねなさそうだし。
 とはいえ、その前段階である本作終了の状態のヒデオも、大層難儀な事になっております。迂闊に超常の世界に足を踏み入ったのが原因とはいえ、一般人(ただしハッタリレベルMAX)には荷が重いことに。今後も紙一重の向こうで戦い続けるんだろうなあ。ウィル子が神域に達してしまったから、単なる立ち回りの段階で最初の頃とは比べ物にならない危険度を歩む事になりそうだ。大丈夫なのかなあ。
 というわけで最終巻。前巻からの布石を順調に消化して、きっかりかっちりヒデオらしい終わりへと驀進してくれまして、大変おいしゅうございました。
 陰鬱→覚悟→ハッタリ→疾走→感動→返せ! 俺の感動を返せ! な流れまでヒデオらしい、というかこの小説の醍醐味を一冊で完全に書き表したある意味完全体だったと、勝手に思っております。前巻の布石の張り方から、一気にまくるのか、と勝手に思ってたんですが、わりと最初は暗いノリで進むんですけれど、これも当然布石。中盤のウィル子の情報収集辺りからこの小説のギアが唐突に入り、そのままウィル子が情報を積み上げていくようにがちりがちりとギアがかみ合い、中盤の脱出からエンジンフルスロットル! そして爆走してゴールに突っ込んで感動→感動を返せ! となります。本当に、ヒデオが後ろ向きから前向きに、という流れは美しいのに、最後のは、本当に、本当に……。まあ問題が目つきなので、簡単に直せる物ではない、と気付くのが遅かったのと、それで若干自暴自棄になったのが敗因ですね。魔殺絡みの仕事はろくでもない、って前に雇われた時に気付いておくべきだったのに。いや、気付いていたにもかかわらず関わってしまったのが、おえんのですけれども。
 一方でその影でほとんど忘れられそうな状態だった聖魔杯本戦は、エリーゼ一人舞台となった感があります。翔希がここでクローズアップされたにもかかわらず、それ以上にクローズアップされたのがエリーゼ、という図式。翔希が自分の事は喋らないから、その分エリーゼが喋り、そのおかげで目立つはずの翔希より更に目立つ、というわけの分からん循環によって、エリーゼがとうとうこの小説最大のキャラ立ちをしてしまいました。まさか(覚悟の差があったとはいえ)みーこさんを実際にも口でも倒すとか、大金星にも程がある。その勝ちに至る流れの印象の強さも、キャラ立ち面での印象に繋がっているのだと思います。この辺が林トモアキの天然性というか、筆がノってるとした言い様の無いものの一端だろうとか。それと対照的とも言える、地道な計算(所々飛躍があるような気もするけど)によってキャラ立ちしたヒデオウィル子組の存在とあわせて、改めて林トモアキは凄いと思うのでありました。
 最後にどうでもいい話をすると、なんでまた翔香ねーさんのイラストがないのよーッ! まあ出番が出番なので、描く余裕なかったとか言われたら信じますけれども。そうだよ、余裕が、余裕が……。この世界観の地続きの次回があるなら、その時は翔香ねーさんのイラスト希望するのでありました。