感想 ノッツ 『ソラミちゃんの唄』1巻

ソラミちゃんの唄 (1) (まんがタイムKRコミックス)

ソラミちゃんの唄 (1) (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「ソラミちゃんの外に出るまでと、それから」。ソラミちゃんはちょっと以上に宅録が好きで完全に引きこもりで大学浪人生な女の子。そんな彼女の、停滞と唄と進展の物語。それが『ソラミちゃんの唄』なのです。
 引きこもり、そして浪人生という前置きをしたので、暗い話なのでは、という誤解が生まれているかもしれませんが、さにあらず。掲載誌はまんがタイムきららMAXなのですから、そんな鬱々としたのが載ってる訳無いじゃないですかやだー! 基本的に女の子がバタバタする漫画に決まってるじゃないですかやだー!
 実際問題、ソラミちゃん自体も、問題はあるけどまあ宅録面白いからいいか、という感じでいたりするし、周りの友達も優しいので悲壮感というのはあんまり無かったりします。むしろ、そこに悲壮感が無いから生まれる狭い中でのドタバタした感じ、勉強しろ! あるいは外に出ろ! と宅録したい! あるいはコミュスキル無いから出られない! が生み出すアンサンブルで動いていたりします。分かりやすいドタバタ要素! そしてこの極小の範囲、家の部屋内での小さな動きがこの漫画の基本的な動きです。そして進まないといけないけれども、中々進めない、あるいは進みたくない訳じゃないけど進めないという部分、停滞の部分がこの漫画の色を、単に楽しいでも、そして単に悲しいでもない物にしています。女の子がわいわいしてるけど、停滞のままである。停滞だけど、でも悪い事であるのか。そういう時期はあるものなのでは? とか色々勝手に考えたくなるワードとして、“停滞”があるという事だろうなあ、とやはり勝手に考えたり。ソラミちゃん自体も、出来るなら外に出たいと考えていたり、皆から優しくされるのに、このままじゃあ、とも考えていたりするのが、その辺を助長します。このままじゃいけない。でもどうしたらいい? 答えが簡単に出るものではございません。そういう問い中で、ソラミちゃんは今日も勉強したり宅録したりするのです。*1
 冗長な語りはさておき。
 ソラミちゃんが引きこもりになったのには訳があります。その訳と唄は大変密接に関連しておりまして、ゆえにその理由が開陳される回というのは、中々に心苦しい。その前段階として、高校二年の頃に学園祭でライブを成功させ、というのがあってのその次の話が引きこもりになった理由の回でありまして、そこの悲しさというのは、そしてそれが今の今まで後を引いているのと合わさって、一気にぐん、と気持ちを下げてきます。まあ、それゆえにさっこさんの行動は美しいんですが、それで今のソラミちゃんがある、けど、それでも今のソラミちゃんがある、というのでやはりすっきりとしきらないですね。しかし、その気持ちの下げがあってからこそ、ソラミちゃんが大学の学園祭でライブに出る、という決意を口にするのはぐっときます。その後一悶着ありますが、それでもライブに立つソラミちゃんの、その口から出る言葉は素晴らしい。この部分の為に、今までのドタバタが、悲しみが、停滞があったのか、と思わせてくれる、見事なゲインでした。個人的にはこの巻で終わってしまっても問題なかったんじゃないか、とか酷い事も思ったりするくらい、きりがいいと感じる位です。ぶっちゃけ、巻末の描き下ろしも合わせると、むしろここで終わらないでどこで終わるんだよ! って気持ちにもなったりします。本当に綺麗なんですよね……。後の歴史でここで終わっていれば、とかかかれない事を願いたい所です、と何様のつもり感満載で〆ます。

*1:長い余談ですが、登場キャラのネモちゃんの、今のままがずっとは続かないし、いつかは違う道に違えて行くのだろうけど、だからこそ今のこの時間を味わいたい、という趣旨の話も、この“停滞”があるいは全ての“停滞”が無意味ではないのではないか、と思わされました。この時間を大切にする事の何処が悪いのか、というべきなんでしょうかね。