感想 沖田雅 『妖怪青春白書 −雪雄くんと薫子さん−』

 内容を要約すると「男の子と女の子がいちゃいちゃするだけ!」。妖怪というフックがありつつも、彼女なんていない人からすると爆発しろ! とか、これこれ壁を殴るのはやめたまえ(俺が)とか、口から砂が出そうとか、そういう気持ちになるライトノベル。それが『妖怪青春白書 -雪雄くんと薫子さん-』なのです。
 この話の恐ろしい所は、本当に男の子と女の子が、特に女の子の方が下ネタふりまきつつもラブラブいちゃいちゃしているだけ、という事です。特に問題は起きません。妖怪雪男というかイエティっぺれえ雪雄くんと、マムシの妖怪の薫子さんが、ヤッた後から始まって、もう一度ヤるまで日常をするっと行うだけです。それだけで一冊が終了します。起承転結という便利なワードが全く機能しない、ただの日常小説。それがこの本の全てです。ここまでそういう方向性に突き進めたライトノベルというのにはまだお目にかかった事が無かったので、個人的には大変目から落麟レベルでほほう事案なのですが、でも、これは大丈夫なのか。妖怪という設定の細かい所も、基本的になくてもいいけど、あるからギリ回っているというくらいの味付けで、そこもまた突拍子もない物の風格をきっちり出し切ってくれています。本当に一応設定的に妖怪だけど、基本的に男の子と女の子の何気ない日常の話なのです。商業的にこれが許される素地はあるのだろうか、と勝手な老婆心が励起するのもしょうがないレベルで、ただの日常の話なのです。
 それがつまらないか、というとかなり議論の余地があります。というか議論したいです。スルーしてしまいたくないのです。普通に考えるとスルーでいいとも思うですが、なんかこのライトノベルが大変好みなので、物議を醸したいのです。醸造したいのです。とりあえず自分の気持ちで言うと、最初は全くの日常しか書かれない様に驚愕してましたし、雪雄くんの一人称のノリに中々慣れなくてうぐぐ、でしたが、慣れてくるとこれはこれでありである、という境地に到達し、そして最後まで特に何もなかった事実に驚愕を再びする事になりました。何度も書きますが、本当に何もない、でもラブはある、ある特別で普通の一日の話なんですよ。それをどう許容するか、でこのライトノベルに対する態度は決まってくるかと思います。だから、個人的にはイエスでありますが、他人様にイエスを求めるのは酷であるかとも。駄目な人はかなり駄目というか、普通に考えるとこれ駄目な作品なんじゃないか、とも。でも、好きなんだよなあ、この何もない感じが。これが出せる電撃文庫の許容量に感心するレベルで、そこも突きつめたいですが、最近はライトノベルとは全くなので、上手く考えられない。というか、こういうのたくさんあるのかな、最近は。そこんとこも知りたいと思うのでありますが、調べるの面倒だー。
 キャラクター面は中々フックとしては強め。雪雄くんのいい男志向とか、薫子さんのいいビッチ感とか、えぐみが薄くて素直に受け入れられる当たりの柔らかさはやはりテクい。基本的に二人の話なので、その二人が受け入れられないと、というのは確かな事ですが、わりとあっさり受け入れられましたよ。そのうえで二人の幼馴染物としての基本をしっかりしつつ、妖怪化がもたらした変化がきっちりと二人に影響を与えていて、で、更に二人はらぶらぶなのです。ふつくしい……。こういうのでいいんだ、こういうので。謎いノリだけど直球でいいなあ。
 とかなんとか。