感想 鳴見なる 『ラーメン大好き小泉さん』1巻

 大体の内容「女の子が! ラーメンを! もりもり食べる!」。説明ッ! この漫画は、転校してきた小泉さんがあちこちでラーメンを食べるだけの漫画です。一応、大澤さんが小泉さんに構いたいけど小泉さん側に特に構われる要素が無いのでスルーされていく漫画でもあります。でも、基本的にはラーメンを、食べる!(グルグル目)という、ラーメン食うだけなのにグルグル目が発動するくらいそれ一色の漫画。それが『ラーメン大好き小泉さん』なのです。
 料理漫画が一周回って食うだけをフューチャーした漫画というのが昨今増えていますが、この漫画もその範疇に収まると言えば収まります。収まらないと言えば収まりません。そういう微妙な線引きの上にこの漫画は成り立っています。食べる系漫画というと食べてる時の心理台詞がよくあるものですが、この漫画はその辺はほぼありません。メインである小泉さんにおいては全くそう言うのがないのです。ラーメンの知識とか店の知識とかは喋る事もある小泉さんですが、そういう内的な台詞は全くありません。そういうのが他の食う系漫画とはまた違う雰囲気を出しています。
 が、小泉さんは雄弁です。
 言ってる事が数言前と逆転してますが、それはさもありなんと思っていただきたい。何故かと言うと食べている時の小泉さんの表情、食いっぷりは凡百の言葉よりも雄弁にラーメンを語っています。つまり、美味いと言っているのです。姉さん、事件です! と『HOTEL』のよくある導入をしたくなるくらいの事件性のある事案ですよ、これは。美味いを説明しないのに美味そう、というのですから。食漫画は大体の場合言葉を使って説明してしまうのですが、そうじゃない、絵で、漫画として説明できるじゃない! という地平があるのを思い出させてくれたと言っていいでしょう。ドラマ『孤独のグルメ』の勝利BGMが掛っている場面でのただ食う様を見せる、あの状態を漫画でも出来る、というのがここに励起されたのです。ラーメン知識の説明は言葉でされる場面も多いですが、実食場面では本当にただ食べるだけ。女子高生が、ラーメンを、食べるだけ! この何とも言えないアトモスフィアというのはまさに得難いという言葉がしっくりくるものです。ハッキリ言ってどうしてこんなのが生まれてくるんだ! って驚きがありますよ。日本の漫画文化おかしい。
 さておき。
 この漫画を読んでいて何故か彷彿としたのは食系漫画ではなく、カヅホ『キルミーベイベー』でした。なんで!? という向きに簡単にご説明しますと、先に書いた大澤さんがスルーされるというのが、キルミーのやすなを思わせる所があるからです。大澤さんはやすな程言行は酷くないですが、それでも小泉さんに喰らいついていく様は被って見えます。対する小泉さんがソーニャちゃん以上にスルースキルが高いので、大澤さんは華麗にスルーされる訳ですが、それでも嫌いとかそういうのではないらしく、ラーメン知識を教えてみたり、気まぐれにしても、そして一人専用席しかない店だったにしても、一緒にラーメン屋行ったりはする辺りがなんかいいです。ラーメンを通じてなら仲良くなれるらしい、というのが大澤さんの友達二人への小泉さんの行動で分かったりもするので、あるいは大澤さんに対しても最大限の譲歩しているのでは、とも見えたりも。そこは主筋ではないんだけど、でもちょっとあると嬉しい、というラーメン屋の無料のトッピングみたいな味わいがそこにはあったりします。今後どうなっていくか全く不透明というか、ネタ切れしたら看板だろうなあ、とも思うのですが、ゆえに限界が見たいと思う漫画なのでした。