感想 おりはらさちこ 『春川さんは今日も飢えている』1巻と2巻

春川さんは今日も飢えている (1) 【かきおろし漫画付】 (ぶんか社グルメコミックス)
春川さんは今日も飢えている (1) 【かきおろし漫画付】 (ぶんか社グルメコミックス)

春川さんは今日も飢えている(2) (ぶんか社コミックス)
春川さんは今日も飢えている(2) (ぶんか社コミックス)

 大体の内容「沢山食べる女の人、いいですね?」。食いっぷりの良さ、というのは人を魅力的にするスパイスであることは論を俟ちませんが、何事も限度があり、加減しろ莫迦! という言葉も出てくる漫画。それが『春川さんは今日も飢えている』なのです。
 春川さんは大食漢です。女の人ですが。仕事場でも常時腹を空かせており、そのせいもあって険のある顔をしていて、ちょっととっつきにくいと思われています。
 しかし、そこから、空腹から解き放たれた春川さんは大変に魅力的です。いっぱい食べる君が好き、がこの漫画のテーゼとも言えますが、そこも限界突破というか、うわこの人カワイイ。というのが大変良くでています。読者側だけではなく、登場人物側もそれを理解する人が出てくるので、やはりテーゼなのだ、と理解出来るかと思います。
 つまり、いっぱい食べる人は正義なのです。
 しかし、この辺は、大食い、フードファイターの人を見るのとはまた違った趣があります。そっちのガツガツとした戦いアトモスフィアではなく、食べる! という喜びに満ちたもの。腹いっぱい食いたいから食う、というのを全開にしている、とでも言えましょうか。
 そこにはただ食への喜びのみがあるだけ。だからこそ、プリミティブな春川さん、というのが見られるのだ! と強弁したいところです。
 食える時に食いたいものを食いたいだけ食う。下手するとこれ以上に求めるものは、世の中にはないのでは? という錯覚すら、春川さんの食いっぷりを見ると覚えてしまいます。
 こう思うのは、結構な頻度で春川さんが思う様食べられない、というシチュエーションをぶち込んでくるからでしょう。会社ではちょっと険が強い、くらいでまさか大食いとは思われていない春川さん。ついでに自身もそれについて公言するつもりはない、というのがあって、よくよく会社関係で大食いを封印しないといけない、という場面があるのです。
 そこで焦らされたからこそ、大食いムーブするところで、良かったねー、良かったねー。という感想を抱きがちになるのです。開かんと欲すれば、まず蓋をすべし! の精神というか、大食ムーブを印象的にする為に、食えない時間がある、というか。
 その食えない、のバリエーションがこの漫画は中々に豊富です。大体会社の何かで食いたいけど食えない、のパターンですが、食と女の人の間に割り込む男こと芹沢さんの早期加入によって、そこにワンクッションが置けるようになったのが大きい所。
 大食いに事情を知る、そしてラブを持つ芹沢さんが関連することにより、不意にこれ、食いたいですよね? ってやってグワーッ! ったり、あるいは回転ずしの皿を僕の前にすれば……! とかナイスアシストをしたり。
 本当に、話の幅、広がるでぇ! とどっかの専業主夫の顔になるくらい、お話の広がり、展開のバリエーションに貢献している芹沢さん。話が進むごとに、春川さんに好感が持たれるようになるのも納得の動きの良さをしています。
 芹沢さん、まだ全然知らんけどスクランブルエッグ、作れますよ! とか見切り発車でやったりする無茶な男なんですが、だからこそ調べて練習して、とか努力家でもあり、こういう話で主人公に恋するタイプとしてはわりとアグレッシブなのも好感度が高い点です。
 こいつなら、春川さんを任せられる! というにはまだありますが、それでもかなり高いレベルで任せられるかも? となるくらいにはなっています。
 その辺の恋話、愛話がどうなっていくのか、と言うのもこの漫画の肝だったりしますが、でも、やはり食べて幸せそうな春川さんを見ると、やっぱりたくさん食べる君が好きなんだなあ、となる。
 そこはやはり基礎なのでブレない。そこをちゃんとやってくれるなら、全然安心な漫画だなあ、と思うのでした。