感想 道満晴明 『ニッケルオデオン【青】』

ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

ニッケルオデオン 青 (IKKI COMIX)

 大体の内容「不思議で珠玉の短編集」。8P読み切りシリーズ『ニッケルオデオン』、最終シリーズ(のはず)の青の登場です。今回も不思議で不可思議でエロもあってBLもあって謎のCPありグロありの摩訶不思議アドベンチャー。それが『ニッケルオデオン 青』なのです。
 前の巻である【緑】(感想)でやった一作一呟きみたいなのを今回も進んでやって行こうかと思います。というのも、どれもどれもが珠玉の短編集である為、どれもこれも、どこかしこも好きという一種偏愛めいた気持を持っているからです。そう言う訳でもりもり書いていきましょう。
 『Grim DEAD』は童話世界オブザデッド。グリム童話の主人公達がゾンビみたいになって他の者達を食べる、という一発ネタ。あまりにも清々しいワンパンチながら、その食欲の留まる事を知らなさが味わい深い。「食べてしまうなんて。でもおいしい」という台詞の悲哀の無さ、ただ食欲に促されるままの気楽さめいたものがありますヨネ。それと、デッド系ながら食う方が主体、というのも実際物珍しいかと。襲う方の視点って、寡聞にして他では木々津克久フランケン・ふらん』でしか見たこと無いです。
 『迷子のチーコ』は極度の方向音痴のお話。極度過ぎてどうしてそうなる!? って感じでしたが、オチの収まりの良さが大変いい話でした。いつもの場所でチーコさんが目印にしていたあの黒猫のようなメルクマールになりながら、彼女がひょっこり出て来ないか、っていうがもう。「愛だな!」「愛だね!」って思えます。あの黒猫もそういう会いたいなにかがあったのか、ともなんか思ってしまう内容でした。描き下ろしのその黒猫の代わりに置いてる黒の招き猫で、来たらいいのに。
 『リノベート・アト・ランダム』は惑星リノベーションの話。何もない小さな星だと思ったら、原生生物、それも人間型のが、というのまでは予測範囲内ですが、そのリノベーションした二人の隊員が神として崇められ、ついでにおせ○くすしたのを見てそれを覚え、というのでこの星のこの先はどうなるのか、という考えオチに。それは確かに大きな争乱要素ですわね。でも、それを持ってその星を潰すとかしない辺り、隊員達が所属してるのは穏当なとこなんだろうなあ、とも。
 『食餌の衝動』は食人鬼とそれに囚われた姉妹の話。食人鬼の罪悪感なく人を食べたいと思う衝動が、でもすぐに喰らいつこうとする訳ではなく、あくまで理性でギリギリ制御出来ない辺りなのが感じられるのが良いです。人肉を食べないと言う選択肢がない、という辺りが特にいい。それに対して、妹を守る為に姉の出す交換条件が、しかしそれって超辛い道なんじゃないか、とも。人殺しの食人鬼の手助け、って大変なことですよ? それも女で少女であるなら、ってどういう意味合いか分かれば余計に。それでも、生きてやるという意志力は強い人だな、という感想も持ちますけれど、それでいいのかとも。
 『魅惑のウンダ―カンマー』は魔女の物を取りに行く話。色々面白そうな物がある中で選んだカードが二億! というオチの無茶さ加減が素晴らしかったです。内容的な見所は妙なへりくだりで仲間に入るなんて無いよな。というかここのものは取っちゃだめだな、という選択肢に到達した部分でしょうか。あれだけ楽しそうに所蔵している人のとこから取るのはないよな、やっぱり。後、森の魔女のとこから、で、森じゃなく森ビルだったのが個人的な小腹痛い場面でした。
 『とある家族の飲尿法(ウロフィリア)』はおじいちゃんが今際の際に飲尿したい、処女のおしっこ飲みたいと言いだす話。この段階で出オチにも程がありますが、それを承った妹の出来上がりっぷり、ジョッキなみなみで表面張力ぱっつんぱっつんじゃなのっぷり、そして処女じゃなかったっぷりが素晴らしくおかしくて困りました。そして処女のおしっこが手に入っておじいちゃん持ち直したって、えー!? というオチ。どういう仕組みなんや!?
 『不死体コンストレイント』は吸血鬼物。アパートの所有権と吸血鬼の招かれないと入れないが絡まってテクニカルな話でした。そのテクニカルさに重点をおいているので、話としてはそのテクニカルさを楽しめばいいかなー、という雰囲気。でも描き下ろしで折衷案で獲物と吸血鬼が共に得する方向に行った、というので、えーと。まあ、どっちも死にたくはないから当然折衷案になるよな、とは納得出来ますが。
 『かいばみ幽霊』は性行為中に現れる幽霊をどうするか、という話。BLを解する幽霊! 今の時代には確かに多そうだよな、そういうの。浮遊霊だから、それっぽい所を何カ所も見つけて楽しんでるんだろうなあ。描き下ろしのとこの台詞の業の深さ半端じゃないし、あそこ一カ所だけとは限らんよな。そしてオチのワンセンテンスがあまりにツボに入って、成程! って唸りました。そういう読み方もあるな!
 『ミッシュリーヌとその中の者たちの話』は巨女に食われた男たちの話。ゆっくりと死んでいく巨女を見たくなくて自害する、とか死んだら栄養になるんだ、とか言い出す辺りの入れ込み具合が中々。最後に大便に包まれて死んでいく、というのも中々。体内世界で生きる、って色々ありますけど、あそこまで生死を共にする話って珍しいよなあ。
 『ほうき星のナルナ』はMMOで速力特化した人の話。その人の足は、という定番の流れですが、他のステを育てれば英雄に、というのもまた定番。でも8Pなので清々しい雰囲気があって良かったです。MMOの世界をその足で走る様が気持ちよさそうだったからもありましょう。
 『積めない方程式』は密航者とロボットの話。ロボットがロボットゆえにどうにもできないけど、それでも密航者の少女を助けるのが精一杯の反乱、というのが大変ロボット萌え力を鍛えられます。最後にお互いの嘘と名前を言い合うシーンのどうとも出来ない部分がもう、いいのですよ。ロボと少女物として結構いい短編ではないかと思います。
 『OKEYA』は風が吹けば桶屋が儲かる話。バタフライエフェクトの話が導入と末尾になっている辺りがヘンテコであります。桶屋が儲かるには! の話のアイ○ツ桶とか、案外いいネタでありますが、そんなに重要あるのかどうか。うどんで使うやん? というのもやはりどうかと。香川国が出来たらいいやん? ってそれ話が無茶苦茶ですから!
 『うたかたの日々』はハヤブサに彼女を取られた話。『ニッケルオデオン【赤】』の最初の話の返歌みたいな内容でした。最後だからかカラー収録で、これで終わりなんだなあ、という感じをひしひしと。終わり方としても取られて納得しないといけないんだな、という諦念が感じられる物でもありました。そう言う意味では、最終回らしい未練というのがあるのか、そういうのとは違う所もあると見るのかで評価分かれそうです。個人的にはいい諦観だなあ、と思いましたが。
 とかなんとか。