感想 市川和馬 『鉄仮面のイブキさん』1巻

鉄仮面のイブキさん (1) (まんがタイムコミックス)

鉄仮面のイブキさん (1) (まんがタイムコミックス)

 大体の内容「イブキさんの表情は堅い」。 可愛いとは何でしょうか。というのは常々と我々を悩ませる問題であります。その回答として様々な漫画が生まれ、可愛い路線は広がっていきました。この漫画もその裾野にある漫画と言えますが、そこらの凡百とこの漫画を分けるる物、というのは、題にあるように、鉄仮面です。といっても実際の鉄仮面を装備すると言う『スケバン刑事2』めいた事はなく、単に主役であるイブキさんが表情が乏しい、を通り越して無いという意味での鉄仮面です。そう、イブキさんは可愛いを生みだす一つの武器、表情を使わないヒロインなのです! 一応、親友の幼馴染の相楽さんにはその機微が分かる、と言う事になっていますが、他の人及び読者側からすると全く表情が分からないのであります。基本的に所謂漫符すらないので、本当に読者側からは表情が分かりません。
 古来より表情はコミュニケーションの重要な部分として存在しています。見た目が9割なんて耳目を惹く本もあるくらいです。それが無い、というのは可愛いというのに対する挑戦状ですらあります。そんなので、この漫画ちゃんとやっていけるの? 可愛いやれるの? という不安を持たれた方もおられましょうが、その点は全く問題ありません。イブキさんは完全な無表情ですが、それゆえに可愛いという倒錯した雰囲気があるのです。こういうのを無表情でやったらどうなるか、というのの思考実験みたいな雰囲気すらあります。基本的に、表情はないイブキさんですが、情動は人並み以上にあり、且つ自分の無表情を理解して意外とお茶目な行動をとってくるのであり、それが無表情でも可愛い、という新たな力を生み出しているのです。表情と言う武器を捨てた代わりに、無表情という武器を手に入れた、と言えば格好がつくでしょうか。それくらいに、無表情というのが生み出す面白さと可愛さが味わい深いのです。
 さておき、イブキさんは無表情だけど結構お茶目で、というのでそのお茶目に翻弄されるのが喜多君。こちらは表情豊かで、ゆえにこの漫画が表情が描けないと言う訳では全くなく、意識的に無表情キャラというのを作っているのが見て取れる訳ですが、それにしてもこの子は翻弄され具合が可愛い。男の子だけど、可愛い感じです。愛玩出来るというか、イブキさんがちょっとからかうのも分からんではないです。それでもイブキさんの事が気にかかって、おちょくられてもついていくのもまたよし。好きとか嫌いとかまだだろうけど、それに到達した時のイブキさんの表情が気になるなあ。
 好きな回の話でもしますと、犬回は良かったですね。無表情に犬を抱き締めるイブキさん可愛いー。そしてその犬は喜多君家の犬だけど、喜多君は下に見られてるらしい、というよくある話も、イブキさんは無条件で上に見られてる、好かれているというのの対比で綺麗に決まっておりますね。俺も犬になりたい。←最後になんだお前
 とかなんとか。