鈴木小波 『ホクサイと飯』


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『ホクサイと飯』(単行本コミックス)

 大体の内容「飯さえあれば、大概の事はやっぱり何とかなる」。『ホクサイと飯さえあれば』から、8年! ということで、一人暮らしで生計を立てている、それも漫画家で! な山田文子さんこと山田ブンさんの自炊生活をつづった漫画。それが『ホクサイと飯』なのです。
 から、8年! と書いておいてなんですが、こっちの方が連載及び単行本化は『ホクサイと飯さえあれば』(感想)より先であるのことよ。サムライエースなんてビタイチ覚えてねえよ! おめえ誰だよ! 誰でもねえよ。って『カメレオン』台詞が自然と出てくるくらいには全く知らなかったであります。なので『ホクサイと飯さえあれば』に遭遇戦しなければ、もっと言うと藤沢カミヤ『ねこのこはな』の広告で一つの話が丸々名のに出会わなければ、この漫画に辿りつかなかったと思うと、縁というのはあれですね、異なもの味なものというのが全くしっくりきます。
 という話はそろそろ長いので脇に置きましょう。『ホクサイと飯』の話です。とにかく『ホクサイと飯さえあれば』から8年後の話であるこの作品。しかし、ブンさんのメンタリティは基本変わっておりません。一人飯だからというので焦ることは特になく、日々の自炊を謳歌しております。ブンさんの人間完成度が元から高かったということでしょうか。それに一人飯さびしいという趣も、『ホクサイと飯さえあれば』と一緒で、あまりありません。はっきり言えば大変楽しそうです。誰かと一緒のご飯は美味しい、というのとは趣きが違うけど、お一人様物としてもまた微妙に顔が違う。この辺りのあわいがこの漫画の良い所です。とはいえ、『ホクサイと飯さえあれば』の絢子さんポジの乙女さんも登場しますし、この『ホクサイと飯』においては1/3程は乙女さん登場するので、一人飯ばかりでもありますん。それでもこの漫画の神髄は一人飯であるのは論を俟たないと思います。俟ちますか? なら脱げば脱ぐほどブンさんの食意欲が増すストリッパークッキングの話を始めますか? ああ、俟ちませんか。そうですか……。←話したかったらしい
 さておき。
 そんなブンさんに成長が見られるような見られないような、いややっぱり成長というのはしてないんじゃね? な『ホクサイと飯』ですが、イメージ的にも『ホクサイと飯さえあれば』と軌を一にしております。相変わらず一人の時はホクサイというツッコミ役がいないとブンさんの行動が破天荒という。ツッコミいなかったらどうするんだこれ、というのが散見されます。先に書いたストリッパークッキングもそうです。
 語っていいですか?
 駄目ですか。
 まあいいや。
 そのストリッパークッキングもツッコミいないと成り立たない危険球ですが、より成り立たないのが五話目の、自分の漫画ネームを脳内で展開している回。この回のブンさんは何時も以上に飛ばしております。歩くことで脳を活性化! 歩くことで運動不足解消! (商店街を)歩くことで買い物も終わる! という考えの時点で上がり過ぎているのがよく分かります。そんな上がった脳みそと、食欲がミキシングして浮かぶ漫画のシーンはどんどん食べ物に侵食されて、ホクサイもツッコむんだけどやはりツッコミが追いつかないのでブンさんがかっ飛んでいく。ある意味でこの漫画シリーズの基本であります。でも、ツッコミが無いともっとひどい事に、なんでこんなひどい事するんだ! って悟飯声でいいたいくらいになるのは良く分かるので、本当にホクサイの存在は大きいよなあ、と。こいつ居ないとただただ奇行に走りながら飯について考える人、という長くて意味不明なレッテルをブンさんに貼らないとですよ。居ても半ばくらい貼っちゃってますけど。
 とはいえ、ホクサイって一体何なのでしょうかね、というのは前々から、具体的には『ホクサイと飯さえあれば』を読んでた段階から持っていました。それを持っていたとしても、解答につながる情報はあんまりないので、妄想程度にしかならないですが。とりあえず、ぬいぐるみが本体っぽい、声はブンさんだけじゃなく他の人にも聞こえるっぽい、自律移動は出来ないっぽい、思考とかツッコミ見ると案外理性的っぽい、くらいですかね。なんとなくぬいぐるみに取り憑いているって見方が自然かしら。『ホクサイと飯さえあれば』でも凪君が幽霊っぽかったし。でも、なんであのぬいぐるみに? 何故ブンさんの近くに? そもそも何をする為に? 考えれば考える程謎しか出て来ないですね、ホクサイ。もうちょっと情報が出てくるのを待って、即断しないのが得策でしょうか。
 さておき。
 この漫画で一番いい回、というの勝手に決めるとすると、やはり最終回『八食目』。この漫画の最終回と言うかこの漫画の載っていた雑誌の最終回としては、(ブンさんの)漫画終わってしまったけど、まだ続いて行くんだ、誰も食べない貝だけど、ブンさんのお婆さんみたいに食べる人もいる。そういう人の為に、というのがなんというか、ごめん、ちょっと重い。という気分にもさせられますが、でも最後のコマの風景は美しいものがあり、この漫画への愛情というのが垣間見れた感もあります。最後に晴れ晴れとした雰囲気が出来たなら、今後も大丈夫なんだろうなあ、そんな気持ちを得た事を記して、この項を閉じたいと思います。