感想 水沢悦子 『花のズボラ飯』3巻


水沢悦子『花のズボラ飯』3巻
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「今日もズボラに」。2巻発売からそこそこの年月が経ち、この漫画のことを仄かにしか思い出せない、という事態に陥っていたところに新刊! ということで『花のズボラ飯』3巻なのです。
 そんな久しぶりの『花のズボラ飯』ですが、その基本的なテーゼは些かの狂いもありません。ひたすら簡単に、ズボラに飯を作る。それがなんだかとっても、ありがてぇじゃねえか……。とCV:稲田徹してしまうくらいに狂いがありません。でも、全体的にみて花さんの妄想力面が強くなっているというか、おかしな空想の絵面が多くなったようには感じました。元々その傾向は強い漫画でしたが、回を重ねることでその部分へのフューチャーが強くなったのでは、と推察は出来ます。その分、この漫画の振れ幅というのが広くなっているんですが、逆に言うとその分所帯じみた部分へのフューチャーが薄くなって、畢竟、汚部屋感とかが薄くなっているよなあという印象を持ったりも。その部分あんまりフューチャーするとこでもないっちゃないんですが、でもこの漫画の一端ではあったわけで、その部分が薄れると、無くてもいいんだけどあるとちょっと違う、苦みみたいなのが抜けたかな、というようにも思ってしまいます。
 しかし、そんな感想も、飯の想像できる美味さ具合の前には、ちゃんちゃら霞みますよ。この漫画の食の、その味の理解出来そうで出来ないギリギリのラインは今回も健在です。41皿目の焼きそばなどがそれで、なんとなく分かりそうな、でも食べてみないと分からないという線上を渡り歩く見事な一作でありました。ちゃんと作っていく過程をレシピ的に細かくコマ割りして見せていくのも、まさに美味い一手。それでなんとなく分かる、けどなんとなくしか分からない。そういうやり口ですよ。実際の所、美味そうだけどどう美味いんだろうか、って今見てても腹が鳴ります。今からカップめん待ったなしだ! レベルです。
 さておき。個人的に一番好きな回は46皿目。箱折お土産の回。ゴロさんが花さんの願いを聞いて買ってきた箱折のお土産のクオリティの高さが大変素晴らしく、こういうのを買って帰られたら、そら酔いどれでも歓迎されるよな、という出来栄えのものでした。しっかりと仕事をこなした弁当で、でも、お高いんでしょう? なんですが高くても一回くらいはこういうの食ってみたいなあ、と思ってしまいましたよ。売ってるとこ知りませんが。この回の落ち着いた雰囲気は、この弁当の仕上がりの力が働いているから、特に変に妄想はばたかせなくても大丈夫なクオリティだから、というのがあるんだろうなあ、とも。こういう回があるからこの漫画は止められないですなあ。
 とかなんとか。