感想 馬田イスケ 『紺田照の合法レシピ』


馬田イスケ 紺田照の合法レシピ(1)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

 大体の内容「そのレシピ、全くの合法!」。一見細面。しかしそれがかえって鋭利な刃物のような雰囲気を持たせている。目も胡乱のようで何を考えているか分かり辛い。そんな男の名は紺田照。ヤクザである。そんな彼には毎日楽しみにしていることがある。それが料理! ということで、料理メンズな紺田照の活躍とその料理の冴えを見る漫画、それが『紺田照の合法レシピ』なのです。
 ヤクザと料理、そのマリアージュに類が無い訳ではありません。かのヤクザ漫画の剛腕、立原あゆみ先生の『極道の食卓』などがヤクザと料理を混じり合わせた漫画であります。しかし、この『紺田照の合法レシピ』での料理は、ヤクザの持つ豪放磊落なイメージとは違うものです。ぶっちゃけそれよりも遥かに手が込んでいます。なにせ、最初のメニューは明太子と大葉の蓮根挟み揚げです。『極道の食卓』の適当な飯とは隔絶したものがあるといえます。以後も、洋風栗ご飯や花束風ハムサラダ、渦巻きステーキなど、ちょっとこの上記表紙のヤクザが作るにはイメージが違うところがあるのが連発されます。
 この紺田照は食のことで頭がいっぱいではないんだけど、でもかなりの割合で今日作る飯について考えているという料理バカですが、それでもしっかりヤクザでもあり、ヤバい案件に首を突っ込むこともたびたびです。ヤバい兄貴分が機嫌を損ねた! とか用心棒としているスナックで大もめ! とか。それでも飯のことを考えている辺りが只者ではなく、特にヤバい兄貴分の時は餃子の皮を使って即興ピザを作って落ち着かせたりと食と事態とを同時に済ませるのがある種の一線を越えていると言っていいでしょう。こいつヤバい兄貴分のいる時でも飯のこと考えてたんやな……。という理解がするっと入ってきます。
 この段階だけでも紺田照の人となり、パーソナリティは十分なのですが、この漫画はもう一段驚きをぶちこんできます。それは、紺田照が18歳であること、そして更にもう一段あって高校生であることです。あの表紙の面構えで18歳高校生です。何を言っているのか分からないかもしれませんが、事実なのでどうしようもありません。本当に、18歳高校生なのです! 高校生なので当然学校に行く回もあります。一人だけ制服じゃなくて白ランで、更にあの風貌で、その上ヤクザのアトモスフィアがかけ合わさって誰も近づかないという当然の事態です。それでも学校に通う紺田照の強心臓というかその段階でも飯のこと考えている辺りが無茶苦茶です。どう時間を捻出しているのか全く不明瞭ですよ。ヤクザの仕事の、やったりやられたりなダーティーな所もきっちりやっているというので夜とかも不定期そうだし、それでも飯はきっちり作るしで、こいつ本当にいつ寝ているんだろう。と言うのを通り越してこいつ寝ることあるんだろうか。という謎の不安すら湧きあがってきます。この人となりと凝った食事。その二輪でこの漫画は成り立っているといえましょう。
 個人的に好きなエピソードは、指紋を見て渦巻きステーキ(薄い肉を巻いたステーキ)を思いつくところですね。仕事柄、指紋は好きじゃないが、おかげで今日の飯の算段がついた。という紺田照の仕事が後ろ暗いのが分かりつつ、それでもどこまでも飯にこだわるその姿勢が垣間見れる大変よいエピソードでした。他にも魔法の白い粉=片栗粉回とか、大葉に対して「最高の合法ハーブだ」って言いだすシーンとかも楽しいです。確かに大葉は非合法じゃないけど、でも言い方! というのがもう。このヤクザと食の不思議なハーモニーが、この漫画の持ち味なので、このまま行ける所まで行って欲しい所です。
 とかなんとか。