感想 グレゴリウス山田 『竜と勇者と配達人』1巻


竜と勇者と配達人 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)(kindle版は2/17から)

 大体の内容「ファンタジーとはファンタジーなんだなあ」。とある国の駅逓局に勤める、ハーフエルフの吉田の苦労の連続。それが『竜と勇者と配達人』なのです。
 わりと本当にそういう話なので、具体的な内容も大体その範疇です。ハーフエルフの吉田が、色んな書類を届ける時にある諸々の話なのです。ということで、やってることは相当地味な漫画です。力のある魔法使いが、炉の火力の維持やチョウザメの卵の冷凍に使われていたり、勇者が大物を倒すと一大商圏が立ち上がったりするくらい地味です。丁々発止のバトルはないし、胸躍る探検はないし、焦がれる恋物語もありません。どれもその要素にニアミスはしますが、メインターゲットではなく、なので地味に見える漫画となっています。
 ですが、その地味、だからこそだろうが! とコミックマスターJ顔になる、ならざるを得ないのが、この漫画であるのです。それはこの漫画のコンセプトが、中世とファンタジーをすり合わせる、というところが所以なのです。
 中世ってファンタジーの基礎のように思われがちですが、これが案外違う、というのがこの漫画が示しています。先に例示した魔法使いが炉の温度の調整やチョウザメの卵の保存に使われている話が特に話しやすいですが、魔法と言う技術が科学技術の発達、特に炉の方の調整をする炎の魔法使いさんの場合で言うと水車の発達でふいごの性能が上がって仕事を追われそうだし、そもそもその水車のふいごを使わない零細なとこだから仕事の環境が劇的に悪い、というのがこの漫画を大変良く表しています。ファンタジックなところがやたら現実的な、その当時らしく描かれる。中世とファンタジーが近似なら、こういうことが起きただろう。そういう物を見せるのが、この漫画なのです。
 もう一つくらい例示すると、これも先に書いた勇者が大物、この漫画ではドラゴンでしたが、を倒した後の商圏の発達も面白いものでした。ドラゴンという大変希少な財を、如何に効率よく商売に変換するか、というので、吉田もその情報とかの使いっぱとして駆けることでオチる回ですが、その後にそのドラゴンを倒したところに町が出来た、というちょっとした後日談があり、これも一種ゴールドラッシュめいたものであるのだな、と思わされました。鉱山とかが出来たらというのの延長戦上のネタですが、それがファンタジーだとこういうやり方もあるのだな、と思える話でした。
 さておき。
 中世とファンタジーの合いの子なこの漫画ですが、中世のネタ部分も大変楽しめます。個人的には羊皮紙の話が大変面白かったです。羊皮紙は消す場合にナイフで削る、までは「へー」でしたが、その削るのとにじみやすいがゆえに、改ざんしたのが分かり易くなっていたからその防止になっていた、という話は目から鱗でした。成程、不便な部分がむしろそういう価値を生んでいたんだ、というのが面白かったのです。後、今ある紙の方が筆記用具になるかならないか。という時代があったというのも落輪。今の視点だと完全に筆記用具ですが、それが生まれた時はそうではなかった、というのが大変含蓄深いものでありました。
 ということで、かよう、中世とファンタジーのすり合わせを行うこの漫画。基本的に凄い地味だけど、だからこそ、その思考実験めいたものがしっかりと味わえる。余分なところを抜いて、そのすり合わせでどこまで楽しめる物を創れるか、そういうチキンレースめいた作品であるかと思います。よくこんな変な漫画が生まれ落ちたものよ、という感慨書いて、この項を閉じたいと思います。