ネタバレ感想 ノッツ 『初情事まであと1時間』1巻


初情事まであと1時間 1 (コミックフラッパー)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「あれまで、あと1時間!」。情事。それはつまりエロス! それをまともに一般誌ですることはまかりなりません。迷わずゾーニングしてください案件です。ですが、その1時間前なら? 1時間前故に、当然そこにエロスはありません。つまり一般誌でやっても何の問題もない! 全くの合法! そういう訳で情事の1時間前の悲喜こもごもを描いた漫画。それがノッツ『初情事まであと1時間』なのです。
その1時間前はたくさんのレパートリーを持ってなされます。普通の情事からファンタジーやSFの領域にも入りまして、その振れ幅もまた楽しいのですが、やはり1話目であるCASE:1『勇人と葵の話』は大変オーソドックスでありつつも、この漫画の先陣を切るに値する一話です。内容としては彼女の家に他の家族がいないからここは一つ、やろうよ! となるものですが、そこに彼女である葵さんに過保護な電話がカムして横やりに、からの、それが大事に育てられたが故に、と彼氏である勇人さんが気づいてしょぼくれて御先端が萎える、からの、という話の流麗さが光る回でもあります。突飛な話よりも、こういう話の方がしっかりとした話作りがされていて、大変素晴らしいのです。やるのは情事ですが! そういう意味では、その過程に感じてしまうエロスの空気と、しかしそれには絶対に到達できないという鉄壁具合の混交具合がこの漫画の面白さであります。
さておき。
一話目以外で個人的に好きな回をピックアップしますと、CASE:3『シンちゃんとミーコの場合』がまず一つ。今まで幼馴染という間柄でいた二人が、ついにその壁を突破する、という話な訳ですが、その部分のせめぎあいがオムライスのケチャップ文字でなされるのが小技のテクニカル。確かにそこ取ればENDですな! しかし、幼馴染のままがいいというシンちゃんさんに対して、このままの気持ちじゃいられないよ、なミーコさんというので、どちらが強くなるかと言えばまあ後者なのは間違いないですわよね。先にシンちゃんさんに好きな人が出来たら、それを応援できるわけがねえ! っていうミーコさんの気持ちは痛いほど伝わってきて、そのまま押し通すというパワープレイにも気持ちが入っていけました。そういう意味では大変卓越した回だったと言えましょう。
CASE:9『野中さんと秋本先輩』も良いものです。女の子として見られてなくて、ハウツー本のパワで押し通そうとする野中さんと、それが全く通じないというか、野中さんが全く女の子パワないという体たらくが大変面白い。しかし、そのボディには女の子パワが大変埋まっており、秋元先輩さんがそれを見てうはーっ! となるという、実は他にCASE:4とこの回だけの男の子が相手のボディ狙いという珍しい回。4話目よりも更に男の子が相手のボディ狙い強度が高いですので、秋元先輩、わりと酷いやつかもしれぬ。とも思えちゃいますが。そういう意味では、そういう話もありと言う振れ幅の確認を出来たのが良かったかと思います。いい話だけじゃない、こういうのもある、というのが。
その部分は、プレ版といえるEXTRA回には更に濃度があります。それがEXTRA:1の『妹と姉とその彼氏の場合』。この漫画の方向性としてはちょっと異質なんですが、それゆえにプレ版らしさがあります。内容としては姉さんの彼氏さんに妹さんが色々と言う、と言うだけなんですが、それだけで色々と考えてしまう、邪推してしまう部分がたくさんあって大変良いものなのです。先にも書いたように、この漫画の方向性としてはちょっと色んな意味の含蓄が深すぎるというか、基本的にアホな話にしやすいのにいきなり暗いオチじゃねえか! なんですが、うんうん、それもまたプレ版だね。という。そういう意味では、1話目、CASE:1が分かり易く恋人同士の、学生の、初体験、という中に色々な味わいが深い回になったのはここからの逆算もあったのかな、と。ノッツ先生、さすがにこんな頭の良いような悪いような内容を考えつくやり手さが垣間見える御方、と言えるでしょう。
にしても、これだけぱっと見簡単に出来るようで実際には大変難しさの埋まっている漫画を描こう、と思ったノッツ先生は流石に手練れです。自分が真正面な漫画家では生きられない、というのをあまりに深く知悉しているという、ある種業の深さすら感じる潔さ。だが、そんなだからこそ、こんな未踏な漫画が顕現することになった訳で、なんというか、人の創造力は恐ろしいのー! と古川登志夫声もでようものです。そんなとある漫画家の生存戦略が、『初情事まであと1時間』なのかもしれません。