ネタバレ感想 船津紳平、他 『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』2巻


金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿(2) (週刊少年マガジンコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「金田一の魔の手が、犯人たちに迫る!」。と書くと金田一が完全に悪者ですが、この漫画の視点の中心が事件の犯人にあるので、あながち間違った表現ではないかと思います。
そんな犯人視点で『金田一少年の事件簿』を見つめ直す漫画。それが『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』なのです。
ネタバレと言ってもこの漫画は既に本編を見た事のある人専の所があるので、そんなにバレなことはないのですが、それはさておき、今回も犯人たちが四苦八苦する様を見て楽しむという、その事件が殺人事件だというのを加味すると倫理的にどうなの、という居住まいな漫画となっていますが、一応フィクションなのと、その四苦八苦ぶりが凄まじいものなのがかみ合って、大変いいものにしあがっています。事件毎に見どころがありますので、それを一つ一つ見ていきましょう。

<雪夜叉伝説殺人事件>

このシリーズ1巻最初、そして金田一少年最初の事件でもある*1オペラ座館殺人事件>でも窓に沿ってひもを設置するというエクストリームトリックがありましたが、この回ではもっとエクストリームな氷橋制作が最大の肝です。いくらなんでもこれを吹雪の中で? というどう考えても一人でやるものじゃないとは思っていましたが、それを実際に、凍死寸前でも完遂する犯人さんの情熱たるや。トリックの為には命の危険すら顧みない! 凄い気迫であります。
が、そこで終わらないのがこの漫画の更なる強さです。明智警視の微妙な残念さの演出もそうですが、それ以上に金田一が氷橋を再現してみせるという部分が、先に犯人さんがしていたがゆえに強烈にひき立ちます。散々犯人さんが苦戦していたのを、こいつはやったのか! というので、トリックを暴くためには命の危険すら顧みないという『金田一少年の事件簿』のある意味狂気的な部分が明確に提示されます。そりゃ犯人さんも戦くし、読者側もその流れからビビります。恐ろしいよ!

<タロット山荘殺人事件>

犯人さんが殺す相手の殺人を見てから色々アリバイ工作するというかなり複雑なプロットだった<タロット山荘殺人事件>ですが、犯人側から見るとわりと見やすい内容でした。殺人を目撃してから必死こいてタロットに殺人内容を合わせる泥縄っぷり、高い風車の中央に括り付ける必要性があんまりない気がするのにフィジカルで頑張って括り付けるというやはり泥縄っぷりが大変印象に残りますが、それ以上に印象に残るのはやはり金田一を殺す! からの金田一が死なない! という展開でしょう。
犯人さんが雪山で殴って意識を失わせ、放置することで殺そうとするんですが、どう考えても死ぬだろう、というのに何故か生還するという流れになってしまいます。一応、美雪さんのセーターが命を繋いだという内容で原作では描かれた部分ですが、犯人視点では何故死んでないんだ! 機転と生命力と運が強すぎぃ! という絶望の瞬間になっており、その狼狽っぷりと、確かに原作読んでた時はいい話めいてたけど、あれ確かにちょっと色々おかしいよね! というのを再確認させられて大変楽しませていただきました。

<悲恋湖伝説殺人事件>

開幕から原作読んでた時から感じていたS・Kのイニシャルの相手多すぎぃ! 案件で入ってくるというこの漫画の流石さを見せつける回です。そこから、犯人さんがS・Kを某DAIGOさんのイニシャルトークめいてS・Kを連呼しだして腹筋がいい感じに鍛えられます。S・K(すべて・くちく)とかS・K(さつがい・けいかく)とかいいよもう出さなくても! ってくらい連呼してきます。やめろー!
さておき、この犯人さんは真面目なのが大変笑いへと変換されます。やるからには完ぺきに! ということで偽ラジオのニュースの為にアナウンサースクールに通ったり、独学でリモコン発火装置を造ったり、とその熱意は他の事に活かせなかったのか。殺害計画以外に出来なかったのかと思わずにはいられないものがありました。金田一犯人は大体そういうのが多いですが。

締めとして

今回も高高度の金田一ネタをきっちり昇華してきてくれて大変楽しませていただきました。白眉はやっぱり<雪夜叉伝説殺人事件>の氷橋のくだり。最大の笑いどころでありつつ、のちに最大の驚愕どころにもなる、というテクがひじょうに優れていたと思います。やっぱりやるなあ、この漫画。
とかなんとか。

*1:更に『金田一37歳の事件簿』最初の舞台でもある