感想 三条陸 佐藤まさき 『風都探偵』1巻及び2巻


風都探偵(1) (ビッグコミックス)
風都探偵(2) (ビッグコミックス)
(画像、文章どちらもkindle版のページにリンク。これを記載した当時は紙の方が値上げされていたので)

大体の内容「さあ、お前の罪を数えろ!」。
仮面ライダーW』の正統続編! そういうのもあるのか。と若干井の頭五郎顔で余裕を見せつつ、内心でははちきれんばかりの歓喜喝采を上げてしまう、そんな作品なのが、三条陸:佐藤まさき『風都探偵』なのです。
まず『仮面ライダーW』について知らない人の為、それと自分での整理の為にどういう話かという説明を、しかし二言でしましょう。
二人で一人の仮面ライダー
ハードになれないハーフボイルド探偵!
これで分かれ! というのは無理がありますので、ちゃんとした説明をしましょう。
とある都市、風都。そこには人を変容させドーパントにするガイアメモリが蔓延していた。その街を守る為、私立探偵であり、二人で一人の仮面ライダーW、左翔太郎とフィリップが戦いを繰り広げる!
という内容です。ここに左翔太郎とフィリップが普段は私立探偵を営んでいるとか、左翔太郎がハードボイルドを気取るけど基本甘っちょろいハーフボイルドだったりとか、付帯情報はありますが、大体は先の一文で説明出来るかと思います。
さて、そんな『仮面ライダーW』の正統続編である『風都探偵』。どうであるかという話に移っていきますが、これが極上。と断じれるレベルであります。『仮面ライダーW』の続編としても、一つの『風都探偵』としても、きちんと成り立っているのです。グレイト!
さておき、どのような続編構造となっているか、という話をしたいかと思います。
先に書いた通り、正統続編ですので『仮面ライダーW』の最終話以後の話になる訳ですが、『仮面ライダーW』のメインの話であった園咲家及び財団Xが終わった形であり、ではどういう部分で駆動するのか。それがこの正統続編の試金石です。それがまあ見事な訳ですよ。
この漫画においては、続編としての駆動系が一つというか二つあります。それが謎の美女ときめさんと謎の場所裏風都。ネタバレを避ける為に謎のと言っている訳でなく、2巻段階ではまだ本当に謎なのです。一応、ときめさんが記憶喪失で、何故か裏風都を行き来出来る、そして裏風都には何やらよからぬものがある。という程度だけが今の所推し量れる部分です。
それだけの味付けできちんと成り立つのかって? だからグレイトなんですよ!
言ってしまうと、『仮面ライダーW』は終わった作品です。少し余力を見せる感じがあったとはいえ、フィリップも関係していた園咲家及び財団Xという駆動系は終焉を迎え、作品としては閉じ、動きはなくなった訳です。
それをリブートする為には新たな力が必要であり、それがときめさんと裏風都な訳ですが、これがどうであるかでこの作品、『風都探偵』の趨勢が決まるとすら言えるでしょう。そして、それはきっちりと成立しています。
この点、2巻同時発売となったという部分にも関連があります。というのも、ときめさん登場から裏風都、そしてときめさんの事情と翔太郎たちとのひとまずの関係、そして裏風都に潜む謎の敵、という部分までを2巻までできっちりと提示しているからです。と言いつつ1巻でもきっちりとその点は完成しているのですが、それが更にきっちりと、慣らし運転もして見定めやすくなっているがゆえの2巻同時発売という選択ですよ。それだけでイエスです。この新たな駆動系をいかに見せるか、あるいはいかに使うか。それをしっかり魅せてくれるのですから。それが堪らなく決まっているのですから! 
という事で駆動系部分はきっちり新しいものを入れられている『風都探偵』ですが、それが既存の『仮面ライダーW』要素ときちんと噛み合っているのもまた得難い所です。例えば翔太郎が依然としてハーフボイルドで、そのせいでときめさんと微妙な関係になっていたり、例えばフィリップが翔太郎との仲が進展したがゆえにときめさんに嫉妬からの謎のBL要素めいた発言をしたり、翔太郎たちが所属する鳴神探偵事務所の所長ことアキさんがドーパントを追う警察の照井竜(仮面ライダーアクセル)ときちんと結婚していたりと、続編としての部分に絡める部分はきっちりとしている印象です。そして、これが本当に正統続編であるということを実感させるのです。
しかし、これは『仮面ライダーW』を履修していないと付いていけない漫画なのでは? という疑念は当然生まれようものです。
話は分かる。続編だから前作は見ていないととは誰でも思う。だが安心して欲しい。全く履修してなくても読めると。何故ならきちりと、初見者が読むという目線で描かれているからです。
基本的に、この話の押さえるべき部分、つまり『仮面ライダーW』の話をするとして押さえるべき部分は2巻でほぼすべて、押さえきっているのです。Wが二人で一人の仮面ライダーなこと。Wが左右3つずつのガイアメモリで9種類のスタイルになること。フィリップと<地球の本棚>のこと。ガイアメモリに悪影響を受けてしまったドーパントのこと。などなど。どれも出せるところで自然に出し、きっちり説明していきます。ここで初見者を置いてけぼりにするようなことはありません。それでいて説明がくどくはなく、きっちりと漫画として読むことでこれまた自然と理解させられます。
なので、ここから『仮面ライダーW』に入門するのも、完全に可能と言って差し支えないでしょう。よく分かる『仮面ライダーW』、という側面すらあります。これで知って、『仮面ライダーW』沼にはまればいいのよ! という趣だってあるのです。タツジン!
さておき。
どの話が好きかとかも話したいですが、やっぱり1巻目できっちりと見せる場所を魅せる<tに気をつけろ>ですね。t、つまりときめさんが加入するというのを8話、1つの巻まるまる使ってやりつつ、それでいて錯綜するときめさんをめぐる状況がこうなるんだろう? みたいな予断から一気に突き放されて、という流石の三条陸脚本の味わいです。
というかこれシリーズとして、特撮として見たかったんですけど! とも一瞬思うんですが、結構漫画だから出来る嘘な部分が大きいとすぐに気づきます。裏風都の表現とか場所によって単純に裏ではなく、地形が違うので実写ですると面倒くさそうですし、このシリーズの敵たるオーロラドーパントのサツり口とか往年の特撮、というか『仮面ライダー』で良くある溶けるやつに似ているので、今どきはむしろ難しそうです。そういう意味では、漫画化だからこそできるネタだと言えるでしょう。出来なかったのをやりにきた! というのが正答かもしれないと邪推してしまいます。
ということで、『仮面ライダーW』好きにも、逆に『仮面ライダーW』をここから入る人にも、お薦めしたい一作となっているのが『風都探偵』なのであります。いや、本当にここまで出来が良いと素直に脱帽するしかないですよ!
とかなんとか。