感想 渡辺伊織 『放課後の哲学さん』

放課後の哲学さん (バンブーコミックス)
放課後の哲学さん (バンブーコミックス)

 大体の内容「恵比澤くんはただただヤバェ」。特にこれと言ってヤンキー的行動はしてないのに誤解されがちな恵比澤君に、何故か師として見出された染井さんのあしたはどっちだ! という内容ではありつつも、染井さんの承認欲求モンスターぶりが絡み合って謎の立ち位置を得てしまった漫画。それが『放課後の哲学さん』なのです。
 染井さん(女子。承認欲求モンスター)と恵比澤君(男子。ヤベェ系)の謎のムーブを見る漫画な『放課後の哲学さん』。哲学、と言いつつもそこに深入りし過ぎず、しかし、盗るものはしっかりいただくわ! という動きをかましてくる、というのは主筋ではないので、ここで断ち切ります。
 では主筋は何かというと、悟りたいという恵比澤君を、そこから生まれる称賛の視線を一身に受けたいう理由でギリギリのラインで玩弄する染井さんの情動の動きを見る。これです。
 とにかく、染井さんは承認欲求モンスターぶりは尋常ではありません。自他ともに認める美人な染井さん。出来る雰囲気がある。凄みがあるッ!! と周りからは見られていますが、いやそんなに凄い人じゃねえっすよ私、という外の評価と内の評価に乖離のあるお人なんですが、でも褒められるなら、褒められるわよ! という虚栄心に満ち満ちた承認欲求モンスターでもあるのです。
 そんな彼女は、ある日唐突に恵比澤君と出会います。最初は不良!? となった染井さんですが、恵比澤君がそれ以上の、ヤベェやつであると発覚し、こいつ、ヤバい! とはなるんですが、彼の余りにプリミティブな称賛に、虚栄心、フルスロットル! となってしまい、以後彼の悟りの為に力を貸す、ようでいて良い感じに導きムーブで称賛を得よう、としていくのが、この漫画の基本となっていきます。
 ヤバい、って恵比澤君どんだけヤバイの? というのは、このご時世に悟りの為に山籠もりをして停学、という時代を錯誤し過ぎてむしろ新しいキャラクターとして立ち上がってくるとこがとにかくヤバイです。山籠もりってお前。他にも、染井さんが戯れに死を思えって言っちゃったら、屋上のフェンス越えてみるとかやりだすのです。やだこの子、ヤバイ! となるのも仕方ないのです。
 が、それでも彼のプリミティブな称賛は染井さんにはドストライク。ただでさえ承認欲求モンスターな染井さんの、琴線をかき撫でまくりんぐなそれに、染井さんはどっぷりです。そこにラブはあるのか? というと、おいぃ? お前それでいいのか? という状態なので推して知るべしです。たぶん、0じゃあないんですけど、それ以上に承認欲求モンスターなんですよ、染井さん。と考えると、そこが染井さんのヤバさであるなあ、と納得出来るので、たぶんそう言うことだと思います。
 さておき。
 この漫画は面白いのか、というと諸手をあげてホールドアップなんですが、若干濃すぎる気もするんですよ。染井さんの承認欲求モンスターっぷりも、恵比澤君のヤベェ系のヤバさも、かなりどぎつい。でも、この二人がお互いでお互いを長所も短所も合わせ飲んでというか勝手に飲み込め! してキャラクターとしての良さを全開にするムーブ。ある意味大道芸ですが、それが綺麗に決まって、この漫画の印象を、ヤベェやつ VS ヤベェやつという一大興行に繰り上げてきているのです。個人的には恵比澤君を演劇部に貸与して、その間に知識の仕入れを! と思ったらあっさり演劇にかぶれる恵比澤君に染井さんが戦慄する回が大変好みでした。恵比澤君、基本ポンコツなのにのめる時だけは高性能なんだよな……。そういう様、もうちょい見たいけど、これで終わりなのか……。と悲しみつつこの項を閉じたいと思います。