感想 貴子潤一郎「眠り姫」

<ともぞ:富士見ファンタジア文庫:580円:ISBN:4829116633
富士見ファンタジア文庫の大賞受賞者の第二作目にして短編集。
こちらの六日辺りに触発されて読む順番を切り替えて――元から計画性が無いとも言う――読んだので、個々の話ではなく全体の感想をば。
貴子潤一郎は言うなれば文章家です。 作家なら当たり前と思われるかもしれません。 文章家な作家なんて表現が重複している、といわれたらそれまでです。 でもいいます、文章家であると。
それほどまでに「文章」に耽溺している、腰までどっぷり「文章」に埋まっているといった方が良いでしょうか、「眠り姫」はそういう作品を集めた短編集なのです。
貴子潤一郎の文章は美しい。 字面、文節、文脈、伏線、叙情、叙述、シナリオ、キャラクター。 それら全てが隙無く「文章」としての美しさという形で結実している。 それが貴子潤一郎を「文章家」とする由縁です。
これはなかなかに貴重な存在です。 こんな「俺は文章を書く事に命を賭けたぜ!」みたい文章家を見捨ててはならない。 それは確かに、文章を組む事こそを第一義としている感じがあって、派手で面白い物には向いていない。 けれども、その文章美はそれ単体で鑑賞するに足るものであります。 そういう珍しい者を見失ってはいけないと思うのでありました。
それはさておき。
「眠り姫」に収録されている「探偵真木シリーズ」を見ながらボーっと思ったのだけれども、川崎康宏(最近だと「Alice」か)もこのシリーズのようなノリで書かれているはずなんですが、どうにも386度位あさっての方向を向いているんですね。 これはどういうことなのかしらん? やっぱり根が真面目か不真面目かで文章というのは差が出てくるのだろうか?