感想 川上稔 『連射王』

連射王〈上〉

連射王〈上〉

連射王〈下〉

連射王〈下〉

 読み終わりました。買ってから昨日までかかってなので、大体二ヶ月ですか。かかった歳月は。
 いやはや。感想、と上に書いていながら感想にならなさそうな気配がギュンギュンします。あッー!
 こういう書き方はあんまり好きじゃないというか、言いたくないというかなんですが、これは人を選ぶ所があります。しかしこの作品にとんでもなく感情移入する、してしまうであろう層には髪の毛振り乱してお薦めしたい、そんな所があります。
 どこにかと言われると、ゲーマー、特にゲーセンを主体としている、あるいは、していた人、です。そして、自分もそれに当てはまるがゆえに、はっきり言ってまともな感想がかけそうにないわけですよ。
 お話の形は基本的に「ゲームで青春小説、ただし書き手は川上稔」って事で済ましていいと思います。いつものように本気とは? という所を重点として話は進みます。いつものギャグノリというか繰言系ハイテンションは影を潜め、じっくりとお話が展開します。エロもないですし。
 んで、それなら普通の川上稔のマイナーバージョンじゃん、とか思うかもしれませんが、ちょっと待って欲しいわけですよ。まず、ゲームに対する話が尋常の域はありません。小説内でゲーム攻略って、始めて見ました。しかも架空のゲームだけれど、シューティング全般にわりと応用可能です。きちんと切り返しとか連射とかは、図解付の解説も載ってます。
 その上更に、ゲーム内の展開を普通に描写し始めます。部分部分で「WARNING!」など、横文字が入りますが、それ以外特に文体や書体が変わったりしません。つまり現実とゲーム内とが、文章中では地続きの形で提示されます。まるで、ゲーム内で起きている事も現実であるように。ここについては色々思うところがあるけれど長くなるので括弧内。*1
 しかしクラクラきます。「ゲームで青春小説」ですよ。しかも、ゲーセン。ついつい自分の昔に思いをはせさせられるわけで、これはもう、たまりませんよ。高村の逡巡とか見ていると、こう、「うろたえるな小僧ーーーっ!!」とつい言ってしまうんですが、それって昔の自分を見ているような所があるからだったのかもしれません。だから、下巻になるにつれて、「うろたれるな小僧ーーーっ!!」から「分かってきたか小僧ーーーっ!!」という風に言えたのかもしれないなぁ、自分。
 もう一段クラクラするのは、この小説がたぶん、ゲーマーな人達にだけ向けて発信しようと思っていない所です。つまり、もっと一般の人に「ゲームに青春小説が書けるのか? 書ける。書けるのだ!」と言いたいのではないか、と、その抜かりないフォローの入り方からして感じられた事です。その為にあえていつもの川上調を抜いた、とすら感じられました。
 この、「ゲームで青春が」というのが行き着く先は、「ゲームをするの異なる事ではない」という辺りに帰結できそうな気がしました。ゲームも既に人々に親しまれて30年余が過ぎ、比較的当然あるものになったのか、とか。詳しく考えると長くなるどころの話じゃないので割愛しますが。
 さておき。
 終盤のある行では、昔の自分を思い出させられましたよ。シューティングに夢中になった事は少ない*2自分ですが、格ゲーはそれはもう、好きで好きで仕方が無かった時期がありました。GGXの時が一番良くやりましたね。もうそれで勝つ為に色んな思索、特訓をしたんですよ。起き上がりリバーサル*3がやたら難しいゲームだったので、CPU戦でわざとこかされては、その練習をしたり。DC版買ってコンボの練習を4、5時間したり。その辺の懐かしさを思い出しました。
 そして、その後のゲーセンの空気を感じている所! これがまた。そこに誰かいた。いて、それに自分も繋がっているのを感じる、というのがあるんですが、それがまた、なんとも懐かしくてたまりません。自分がそれを感じたのは、あるゲーセンが閉まる時だったですけれど。その時の哀愁をまた思い出して、ちょっとしんみり。
 あー、駄目だ、やっぱりぐだぐだ。

*1:つまり、ゲームするとは、特殊でもなんでもなく現実の一部である、という視点として書いているも見えるわけですよ。んで、ゲームをやっているのは、新人類じゃなく同じ人間であり、人間であるからこそ、わからない部分も、わかる部分もある、と。だから重要なのは、ならば分からない相手とどうするかである、というのがこの作品における「本気」と同じくらいのテーマではなかろうか、と邪推権発動。だから、なんとなくゲームが特別なものじゃない、というのをゲームしない人にも、あるいはする人にも言っているような気がします。

*2:すぐに見当たらなくなってしまった19XXとかストライカーズ1945Ⅱとか位

*3:倒れて立ち上がったその瞬間に技を出す事。ゲームによって難度がまちまちだが、起き上がりは格ゲーにおいて基本的に大ピンチなので、出来る出来ないで選択肢が相当違ってくる