感想 石川博品 『クズがみるみるそれなりになる「カマタリさん式」モテ入門』

 内容を要約すると「どこがどう「カマタリさん式」なんだよ! モテてるけど!」。内容から類推すると、カマタリさんがクズを変な方に発奮させつつ、仲を上手く取り成していく、って、ああ! なるほどそういう事だったんか! 結構普通なやり方じゃないか! それに気付かないとは! ウカツ! 
 っても、その発奮させ方の段階でセーブポイントを活用してるので普通じゃないです。
 セーブポイントとは? それは時空の狭間*1に基準点を残して曽我野三姉妹落とし大作戦に失敗したら強制的にその地点へリターンする機能です。失敗したら、といってそれ誰が判断するの? というのはセーブポイントを作った機械が自動的に判断してくれます。
 この話の前半はこれを有効活用して、というかほぼイベント戦闘レベルの敗退を連打しまくる展開でして、それゆえに失敗を見たこちらを笑顔にさせてくれます。曽我野三姉妹攻略は基本的にセーブポイントを使っての強くてニューゲーム感覚でアタックするんですが、初期のレベルがあまりに貧弱貧弱ゥ! なので単に会話するだけでデデーンする*2辺りは本当に中野…こいつ駄目だ…はやくなんとかしないと…。と思わされます。しかし、セーブポイントのおかげでみるみるそれなりになっていく辺りが“なんとなくSF”って感じです。ビバ!タイムトリップ! でも、なんとなくで済ませてる辺りのバランス感覚、あるいはライトノベル理解は流石石川博品と言うべきところでしょう。
 さておき。
 前半は笑い所であるデデーンですが、それが中盤になってくると色を変えてきます。なんと中盤になるとそれなりになってきた中野君がターゲットの曽我野三姉妹にそれなりに上手く接近する形になるからです。それゆえに、あまりに上手く行くがゆえに、どこでデデーンするのか、してしまうのかという恐怖としてデデーンが立ち上がってきます。それゆえにこの作品には、リターンする恐怖というのが一つのテーマなのでは、とすら錯覚します。結論から申せば、これは錯覚の域を出ないんですが、もしシリーズ化する事があれば、その使い方もあるだろうとは思わされます。石川博品ならやってくれる、に違いないですよ、ええ。過大評価? フッハ(嘲笑)。
 さておき。
 そんな中盤ですが、それなりに上手く行く流れに持っていくのがやや強引に感じたりも。最初の上手く行かない辺りが大変面白かったのと、先に書いた恐怖を勝手に持ったがゆえに、どうしても構えていたのがいけなかったのかもしれません。でも、「それなりに上手く行く」と言うとそれなりに上手く行っているので、なるほど、題の“それなり”はこの事だったんじゃねーの? とか思って見たり。
 そして終盤に突入してクズが本当にそれなりに恋愛していく形になるんですが、その辺りは本当にとんとん拍子。実は攻略対象も変に攻略難度が高い、つまり藤崎詩織クラスタではなく意外と駄目な子だったのが幸いしたのか、それともこれこそ『カマタリ式』の成果なのか。その結末までのちょっとした波乱も見事な伏線回収をみせつつ進み、最後には当然の別れが。あれ? 俺良い話読んでる? そんな気分にさせられました。終盤はマジ良い話テイストなんですよ。テイストを抜かせられないのがやや難ですが、それもまた味わい。『ネルリ』では最終巻最後以外ではシリアス展開でも某レイチ君が暴走妄想してたから分かりませんでしたが、なんだよ石川博品、良い話書けんじゃん。とか上から目線が堂々の発露しました。この辺のちょっとした機微の揺れ動きは良いものでしたよ本当に。
 最後にキャラ的な話。この話の基本はカマタリさんと中野君なわけですが、どちらも妙なキャラ立ちしていて、この二人がメインで話が進むのが楽しくて楽しくて。分かってんのか分かってないのか良く分かるようで分からないカマタリさんの行動に中野君がビタイチツッコミを入れるスタイルがこの話の骨子でありまして、そこではじける中野君のパンクスピリッツ*3が見所であります。中野君はボケと言うかパンクも一人で出来るので、それゆえにカマタリさんとの丁々発止が見事に決まり、それがこの話自体が結構バカっぽい話にしているのが印象的でした。パンク・イズ・ノーデッド!やりやりで!
 しかし、クズと称された中野君をそれほどクズと感じなかったのはヤバイのでしょうか。基本的にまあクズとは言えるけど、ゲスではないというか、そういう辺りに落ち着いてるのが印象に残りました。単に自分がクズだから気付かなかっただけでかなりクズなのかもしれませんが、でもゲスではないよなあ、とか。この辺、ライバルとなるゲスが出てくるとかが続いたりしたら展開としてあったりするのかしらねえ。
 さておき。
 やっぱりというか、続き読みたいなあって思ってしまいましたよ。あるならみたいな中野君の新たなモテオーラロード、覇業を。この巻でもある意味完結しているのですが、それでも続きはまだなのかああん? という言葉を、締めの言葉としたいと思います。

*1:この作品の重要ターム。「便利な言葉だよ時空の狭間って!(CV柚木涼香)」ってくらいに頻繁に使われる。

*2:アウトになるの意。このデデーン「アウトー」の流れが前半の笑いのツボであります。

*3:やや形骸化したけど。