感想 佐藤両々 『崖っぷち天使マジカルハンナちゃん 1』

崖っぷち天使マジカルハンナちゃん ? (バンブーコミックス)

崖っぷち天使マジカルハンナちゃん ? (バンブーコミックス)

 大体の内容。「魔法少女は29歳!」。魔法少女には禁じ手と言うのもがございまして、一つ目が性別が少女じゃねえ、二つ目が歳が少女じゃねえ、であります。一つ目の極北が塩野干支郎次ブロッケンブラッド』シリーズで、これは男の子が女の子より可愛いならそれで良いじゃないか! という清清しいを通り越して禍々しいレベルに達している大悟っぷりが素晴らしい作品です。
 それに対してもう一つの極、歳という枷の極が、この『崖っぷち天使マジカルハンナちゃん』なのです!*1
 年齢的に厳しい魔法少女、と言うネタはオタククラスタの方ならいくつか「これは!」というのがあると思いますが、この作品の凄い所はガチな社会人に魔法少女をさせようという悪魔的奸智にあると思います。もとより職業物が得意分野と言える佐藤両々せんせだからこそ出し得る、ガチのOLが魔法少女の枷に嵌められたらどうなる? というモデルケースが、ここにあります。
 世界の平和とかじゃなく、かといって魔法世界の安寧の為でもなく、事実上単なる家出人探しになんかに超運が無く巻き込まれてしまった帆南さんの明日はどっちだ! というのが大体の筋です。その探しもOLの仕事との兼ね合いで遅々として進まず、とは言えどいつ見つかるかわからないからランドセル持ってけとかお付の珍獣(ロリコン)がのたまわれ、持って行ったら同僚に変な目で見られたれ、携帯はメルヘン化(探知機化)してしまって普通に使えず、姪っ子は珍獣に興味津々だけど珍獣は劣情満々でなんとか引き離そうと必死になり、というアラサーの悲哀とかそういうの以前に、帆南さんなんか悪い事したの!? なんかの天罰なの!? とあまりの不憫さに落涙と爆笑が交互にやってくる仕儀となっております。探しの方も進展しては行くんですが、そうするとどんどん駄目な奴ばかりが増えていくと言うのもまた、悲しさとおかしさを助長してくれます。どうして王子のお付はあんな匂いフェチの変態なんだ…。そこまで変態って魔法少女絡みになるともう全方位変態状態じゃないか…。ただでさえ珍獣がロリコンで事あるごとにババアババア言われて逃げ場が無いのに…。
 さておき。
 ここまでの記述で大体「これはひどい」と言う物だというのはお分かりになられたと思いますが、しかしこの漫画、これはひどいにはこれはひどいんですが、しかしその軸足、設定面の健脚っぷりは流石一線で闘っている作家の物、と唸らせられます。魔法少女になるワードの設定とか、解除の仕方とかをきちんと組み上げているからこその、そこの弱点をついた展開が見事。解除の為には珍獣のほほにキスしないといけない(珍獣の意向でそういう仕組みになっている)というのに、珍獣が会社の中に! 変身したまま行けるわけねーだろ! となった回も、変身アイテム(色んな職業になれるが、歳が+15=44歳に)でなんとかする! と上手く切り抜けてたのが印象的でした。帆南さんの魔法の出来る範囲とかも秀逸で、実際その設定内できっちり動かしてるのもまた良いものがあります。設定とはこうして使うものだ、フハハハハ! とか言ってるんだろうなあ。←邪推妄想
 しかし、これ以上の展開は望むべくも無いと言うか、これ以上酷くなったら帆南さん社会的に死んじゃわない? という気もするので、そんなに長く続かないだろうなあ、とも思います。でも、切りよく綺麗に終わってくれた方が、ある種の名作になると思うので、是非ともそういうのを見せて欲しいと思うのでした。 

*1:この方向性の二つ併せての極北は皆さんもご存知の通り、大和田秀樹『ドスペラード』だったりします。あれは時代を先取りしすぎて必要な酸素がなくなってオート自決みたいな形になってしまいましたが。