感想 ながいけん 『第三世界の長井』1、2巻

第三世界の長井 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

第三世界の長井 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

 大体の内容。「それは神すら見放した世界」その世界に立つ、音速の長井とは!? アンチテーゼとは!? 伊藤とは!? というノリだけど内容は無いのでご了承ください。基本的にシュールとギャグとパロディとシュールで彩られ、しかしそれだけではないような風味の漫画、それが『第三世界の長井』なのです!
 もう少しどういう漫画かを説明すると思った? 残念! 私にも良く分かりませんでした! というのがあまりジョークとして機能しないくらい、この漫画は意味不明の味わいをしています。大体の筋は? とご所望なら、上記に書いたように神すら見放した世界における長井の生き様を無様に描く物です。本当に大体そんな感じなんですよ。基本的に長井と呼ばれる青年が主役というか中心ですが、その長井が何をするかと言うと、宇宙人ともアンチテーゼとも呼ばれる敵のようなコスプレした人のような相手とくんずほぐれつすると思ったか? 甘ェ! と言う事でなんかなし崩し的に勝ったり、相手が戦意なくしたりというグダグダな戦いを繰り広げます。しかし、この漫画の真髄はそこにはありません。残念ながら。
 ではどこか、と言うと兎に角叩き込まれる“設定”というものにまつわる話が、この漫画の肝であります。長井がそれによって普通の青年からシュールな青年へと変貌させられたらしく、それが頭が悪い上に際限なく増えていく為、そこから世界がおかしくなっていく! という体がこの漫画の基礎となっております。それをどうするのか、という話こそ本編なのです! という見方も可能ではありますが、そこは本当にそうなのか。というのも、そういう見方以外の方が楽しいのです。自覚無く翻弄される長井の姿が面白いのです。そこは見誤ると、この漫画の深遠に絡めとられる事になりかねない。そういう風にも感じたり。どっちを楽しむかは読者の技量に任されている、という意味において、帯にある上級者向けというのは当たっている漫画です。

第三世界の長井 2 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

第三世界の長井 2 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル)

 さておき、話をこの漫画のおかしみについて言ってみましょう。この漫画の肝は、上記しましたように“設定”にあります。この“設定”はアンカーと呼ばれ、どこからともなく長井とその周りに追加されます。これは益体もない物ですが、どれ位益体もないかと。

設定77 主人公の父親はディオに間接的に殺害された

 どうよ?(ドヤ顔で) これのような色んな意味でどうしようもない感じの設定が、次から次へと乱打されるわけです。2巻の最終的な展開では巨大母艦すら出てくるので、どんだけ無茶苦茶になっているかが分かろうものです。この無茶苦茶さが長井に対してどのように表れるか。それがおかしみであります。
 後、神を配置して、神にギリギリの世界運営させる、というのも、この漫画の一側面。神と眷属らしい人達との衒学めいたそれっぽい会話も、それっぽさ全開です。今サラリと神といいましたが、もう一人の主役と言える青年は本人申告では神です。単純な意味での神なのか、作品に対する神、作者と言う意味なのか、その辺は明かされていませんが、兎に角神です。その神が放置した世界に、アンカーが追加されていく。つまり世界が神の手を離れていく。という見方が、この漫画の更なる見方として立ち上がってきます。
 これはある意味創作の暗黒面とも見えます。創作として普通に処理されていた世界に、変な設定が加わる。最初は整合性は取れても、徐々に、しかし確実に世界における設定が、そして世界は狂っていく。たぶん、そう見せているだけな気もしますが、でも釣られたクマー! してしまうんですよね。創作に生っ齧っていると、余計にそっちの方向性に見える。衒学的にとか、創作的にとか、そういうのは単なるブラフじゃないか。とにかく、そういう意味合いでは疑心暗鬼を誘発する作品だなあ、とか思ったり。それまたおかしみであると思います。やはりながいけんせんせは出来ておられます。