感想 津留崎優 『ちょっと!そこの男子!』

ちょっと! そこの男子! (カドカワコミックス・エース)

ちょっと! そこの男子! (カドカワコミックス・エース)

 大体の内容「ちょっとそこの男子ー!?」。元女子高で女子比率がむやみに高い(男:女=3:27)私立斜陽高等学校でのDirty deeds done dirt cheap(いとも容易く行われるえげつない行為)、それがこの漫画、『ちょっと!そこの男子!』なんです。
 何がえげつないかというと、出てくる女子が大体えげつないのです。女子の巣窟であるがゆえに女子力
? ああん? という状態であり、男子がいない場合の女子、あるいは多勢であるがゆえの女子というもののえげつなさが全開で出ておるのです。基本的に、男子面子がベランダ等でくっちゃべる漫画なのに、そのベランダにいる理由が女子が机占領して教室が居た堪れないの段階でD4Cが発動しています。そういう前提条件を加味して、そしてこの漫画は読めば、読めば読む程に男子面子に男子ならずとも感情移入してしまうという亜空の切なさが炸裂しております。こういうのを悲哀というのですよ。特に前久保君のあれな女子しかいない中でそのあれな女子にすら視野外扱い、アウトオブ眼中で空気以下という相当酷い扱いを受けてというかそうなっており、ついでに男子面子の間でも特に絆が深くないという、特に取り立てて何かが無い以前に人生のダイス目がファンブルしたんじゃねえかってレベルなので、彼に対する悲哀感は大変な物があります。何かして空気以下ならまだ原因が突き止められるだけいいんですが、何もしていないのに空気以下なので、本当に何かファンブルが起きているとしか思えないんですよね……。
 この漫画、女子面子に基本的に名前が出ないという扱いなんですが、名前が無いのはむしろありがたいという謎の有難みが存在します。あくまでモブとして、この一回こっきりの登場なんだ……、という救いなんですよ。大体出てくる女子の台詞と行動はパンチが強い、というか灰汁が強いので、これで名前と紐付けして記憶に残るというのは勘弁願いたい、一回見たらそれでするっと忘れたい! と思わされるので、本当に名前無いのありがたいですよ。ほぼ唯一名前が出る前田さんは細かく出てくるけど、まだ言動がましなのもありがたいです。これで女子力? 知るか? 油分うめえんだよ! とかいう人の名前はあんまり積極的にも消極的にも覚えたくありません。*1
 さておき。
 実は完全に男子面子だけで行動する場面も多い漫画なんですが、それゆえに偶の女子ネタががっつりパワーを持つのも事実。そこに対して、無理に自分から攻めるのが、川口。この漫画の配置ミスと作者に言われてしまうレベルの川口です。女子にむりくり対抗していく川口には一体なんのトラウマがあるのか、というくらいに要らない波風を立たせている彼ですが、しかし、女子に対してのその並々ならぬ憎悪は、嫌いは好きの裏返し、という言葉の空虚さすら感じさせるものがあります。大体酷い目に遭うのに、女子に対して攻撃的でなければ気が済まない川口。姉が上にいるせいで女性に対する態度が空気な鈴木よりも深い闇がありそうです。そこが語られる事はついぞありませんでしたが、それゆえに妄想の翼を羽ばたかせられる部分でもあります。本当に、彼には一体何が……。
 さておき。
 しかし、この漫画を津留崎優名義であるがゆえに手に取ってしまった人というのはどういう慟哭をしているんだろうか、という疑問がふつふつと。慟哭しているに違いない、というだけで偏見凄いですが、実際『箱入りドロップス』でも同人誌や艦これアンソロでの龍田さん漫画とかとは亜空の立ち位置にいる漫画です。でも、萌え系描いてると暗黒面が開くんじゃー! という津留崎せんせのあとがきは、そういうカルマがある人だったんだ、という理解を我々にもたらせてくれます。そのはけ口が無くなった今、また違う方向性でそのカルマが発動する場所があれば、またいいんだけどなあ、とも思います。萌え系で発露されたら困りますからね!
 さておき。
 最後に女子の名言を引いて、この漫画がどんな雰囲気を持っているのか例示して終わりたいと思います。

「いい? 女は恋をして綺麗になるの 恋をしてはじめてキレイになりたいと願うものなの
 でもこのクラスには恋を出来るレベルに達した男子はいない訳 そりゃこっちも頑張る気が失せる訳よ
 つまり私がブスなのはあんた達が不甲斐ないせいなの 分かる?」

「いっそ清々しくて好感持てるレベル」
「分かる」

*1:名前ある人ですが、俺はもう覚えてないんだ……。出なかったんだ……。