感想 阿部かなり 『サンタクロース・オフ!』1巻

サンタクロース?オフ! (1) (まんがタイムKRコミックス)

サンタクロース?オフ! (1) (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「新提案、こんな可愛いサンタクロース!」。サンタクロース=ヒゲの爺様という既成概念を根底から打ち崩す、ちっこくかわいくめんこい妖精のサンタが主役の漫画、それが『サンタクロース・オフ!』なのです。
 この漫画は異種が日常に入ってくるタイプの漫画ですが、それがサンタクロースというのが中々レアな点。サンタクロースというとヒゲもじゃ爺を思い浮かべるのが日本人の心意気ですが、そこをあえて崩して、よりファンタジーな存在に仕立て上げている訳です。そのファンタジーな部分はさらりとしているものの、その裏にたくさんの思考があるのが仄見えるのが、この漫画を更に良いモノにしている点としてあげられるでしょう。サンタクロースの雪日の正式な名前が、

雪降る子の日雫湖と同化せし頃夜明けと共に生まれし光

 な辺りでそのガチ具合が理解出来るかと思います。とはいえ、こういう長ったらしい名前は一々使われないですし、また名前の由来であるサンタクロースがどのようにどこで生まれるか、と言う話もちゃんとありつつも、わりとさらっと流していくので、ファンタジーにありがちな膨大な設定の前にこちらが失意体前屈にてとん挫、というのが無いのがこの漫画の強みと言えましょう。考えているけど、それを前面に出さない手管が優れている、と言い換えてもいいかもしれません。
 それ以外に良い点は、雪日がするべき目的がきっちりしている点。こういうのではわりとその辺がボケボケもやもやになる事が多いし、その分連載が長続きする場合もありますが、この漫画はそれを良しとしていません。雪日は睦月ちゃんに触られた事で、サンタクロースが持つ力の一端がどっかに行ってしまうという状態にあり、それを元に戻す、というのが目標としてあり、基本的にそれを探すのがこの漫画の一つの駆動力となっています。そして、1巻で4つの失われた力の内の二つを回収する事になり、後二つ! と明確に目標に向かっています。んですが、実は四つあるうちの残り二つの能力が曲者で、その内の一つ時間停止はまだいいものの、もう一つの瞬間移動がどう考えても運ゲーであり、ここをどう捕えるか、というのでこの漫画の尺は自在にコントロールできる状態にあります。この辺は中々上手い手を使ってきたな、という印象です。最初、三年いないと、とか雪日が言ってますから、この辺の設定は最初とは若干違う、つまり最初3回はゲスト期間だったから、そこは煮詰めてなかった、という事でしょう。その辺を再度詰めてこの仕上がり、は素晴らしいと言えるのではないでしょうか。
 さておき。
 そんな目標は一応ありつつも、基本は女の子とサンタクロースの交流の話であります。その辺りも大変滋味深いです。睦月ちゃんがいい子だけど色々と無茶をするとか、友達の咲ちゃんは元気系だけど意外と弁が立つとか、エルナちゃんは外国人系だけど日本語ぺらぺらだけどちょっと男言葉だからモジモジ系なのにカッコイイ、とか、絶妙に登場人物のキャラ付けをずらしているのが印象的です。その対になるサンタクロースの面々もやはりちょっとずれが、雪日が意思疎通の力無しでも日本の言葉が分かるよう勉強したけどやっぱり片言とか、あって、それをさらりと魅せる様は見事の二文字。この辺もこの漫画の良さであります。登場人物の増加量もゆるやかですし、色々上手いなあ、と思ってしまう、そんな漫画なのです、と記載して締めとさせていただきます。