感想 渡辺伊織 『ゆとりノベライズ』1巻

ゆとりノベライズ (1) (まんがタイムコミックス)

ゆとりノベライズ (1) (まんがタイムコミックス)

 大体の内容「或ライトノベル作家の一生」。というにはまだ早いですが、それでもその一生の端緒ではある。と言う訳で或ライトノベル作家の一生の内のある日常の漫画。それが『ゆとりノベライズ』なのです。
 もうちょっと内容の話をしましょうか。と言っても割と簡単に片付きます。新人ながら処女作が二巻打ち切りになった都ゆとりせんせが、優しいし豪快に見えて実は身内以外は苦手という所謂内弁慶の里美嵐せんせに振りまわされたり振りまわしたりする漫画であります。とはいえ、どちらも破天荒という程ではないので、とんでもない展開に陥ることはあまりありません。ゆえに、地味に見える漫画ではあります。だがしかし! まるで全然! 派手と言うには程遠いんだよねえ! と言えるくらいに地味な漫画です。しかし、だからこそ、等身大の作家の話として、この漫画はあるのです。特に都せんせは打ち切り食らって二度目も打ち切りが決まって、という過酷な状態でありますが、それでも、というかむしろ鬱屈した方がいい作品が書けるという業があるんですが、それでも書こうとする姿は尊く見えますし、そういう人だからこそ、この巻の後半にある、ライトノベル作家志望の子への諭しも効果的になっています。他には里美せんせも基本いい人だけど先に書いたように内弁慶で、というのが色んな所で奏功というか影響して、その存在を強固な物にしています。こういう、ベタ基礎をきっちりしているからこそ出る蓋然性というのが、この漫画を滋味豊かさ溢れるモノにしています。
 かようにベタ基礎ができているので、例えば都せんせはわりとネガティブな方で、初手から打ち切り食らったのも合わさっておっかなびっくりな部分がありますが、そこを里美せんせがフォローしてるようなしてないような雰囲気だけどでもちゃんと助けてたり、あるいはファンに男と思われてる里美せんせがサイン会で変装してる+声でばれるので喋れないのをフォローする役として都せんせがいて、テンぱって返答が出なくなった里美せんせに対して都せんせがいつも思ってる事を喋って、それで里美せんせが気恥ずかしくなったけど有り難いと思ったり、と二人が好循環を為しているのが理解しやすく、ゆえに内容もとっちらからずに二人の関係を基礎に、都せんせや里美せんせの仕事の話とか、あるいは特にこれと言ってな話をしたりしており、大変読みやすい漫画として立ち上がってきております。特にド派手な事は起きないけど、それがある種の正しさ、こういうお話ならそういうのは特になくてもいいよね、という理として顕現していると言えましょう。
 とはいえ、波乱もあるにはあります。特に都せんせがまだ不人気作家で売れ行きが芳しくない、というのが最初の打ち切りから次の作品出したけどまた打ち切り決定っぽい、という流れになる辺りがそれです。こういう話なら避けては通れない道ですが、でもただ辛いだけにはならず、ちゃんと次の打ち切りの巻を決めたのは偉かったぞ、って里美せんせがフォローしたりして、次につながる一歩になって欲しいなあ、と思わせる方向に進んでくれました。それがこの漫画に対していい感情を持った要因であります。誤魔化さず、とはいえ辛くなり過ぎず。そういうギリギリのラインを攻めた格好ではないかと。そういう姿勢、大変好きです。ある意味で安心して見れる内容でありました。次の巻は来月らしいので、過たず買い支えたいと思います。