感想 橋本智広 他 『中間管理録トネガワ』1巻


中間管理録トネガワ(1) (ヤンマガKCスペシャル)
(画像、文章共にAmazonのページ)

 大体の内容「中間管理職はつらいよ」。上は暴君兵藤会長、下は数多の黒服達。それに挟まれた中間管理職の悲哀を描いたなどと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ。それが『中間管理録トネガワ』なのです。
 この漫画の恐ろしくもおぞましい所は、その福本漫画漫画ぶり、つまり福本漫画に則った漫画である所です。上記表紙を見ていただければ分かりますが、まず絵柄がデッドコピーなんて言葉は通用しない、ご本人と間違えるレベルの福本アトモスフィアの絵柄であります。そして絵柄もそうですが、内容の方も福本漫画の準則でありつつ、どこをずらせば笑い所になるか、という点も理解しきっている悪魔的奸智に富んでいます。多数のAAやコラの作られた福本漫画の精髄を、絵柄と内容どちらも併せ持ち生まれたこの漫画が、響く人にクリティカルしない訳がありません。逆に言うと福本漫画分かってないと若干威力が弱くなるという弱点もあるのですが、でもこの漫画を目に留める人の100%が福本漫画の素養を持つ、あるいは素養を持ちえるのであまり意味の無い弱点ではありますが。
 さておき。
 この漫画の笑い所というか、楽しみ所というのは、スピンオフとしての楽しさと、福本漫画漫画としての楽しさが混交している点であります。
 スピンオフとしては、兵藤を楽しませる為の悪魔的遊戯を利根川達が考える、という『カイジ』には無かったがゆえに突く所としては正しい題材であるのが良い点です。読者側からしてどういう発想で出たのだろう、と思わせる『カイジ』における数々の悪魔的ゲームの数々がきっちりと会議室で協議されるというよくよく考えなくても変な状態なのが素晴らしいのです。それも、議論が白熱し出していける・・! ってなった所に兵藤会長が出てきて、からの利根川の保身的行動で部下の心が離れていく・・! というわりとどうでもいい話になったと思ったら今度は部下の心を引きとめる為、一緒にレジャーにという更にどうでもいい話をしてくる辺りが本当に素晴らしい。原作のひりつくような博打の空気とは全く無縁の、ある意味なにも無いがある系にすら足を踏み入れるという悪魔的所業。ぶっちゃけレジャーの話で二話使う必要性がどこにもない辺りも最高です。
 そして、福本漫画漫画としての楽しさ。勿論、それは絵柄と台詞回し。その力が完全無欠に出ているのがこのコマでしょう。

 このコマの絵柄及び福本漫画台詞エッセンスの使い方の良さは、たぐいまれなものがあります。正直、この1コマだけでも買った甲斐があったという錯覚を覚えるレベルですよ。この絵柄と台詞のエッセンスを十二分に活用することにより、元来の福本漫画より、より福本漫画感が積み重なるという悪夢的仕上がりとなっています。本当に福本漫画を知悉していればしている程、楽しめるのです。
 何故かように楽しめるか、というのはおそらくそこに微細な柄のズレがあるからでしょう。福本漫画のエッセンスというのは、そのたぐいまれなる視点からくるものですが、その視点の視座を借りて、他の部分を焦点する。今まで見れなかった利根川の中間管理職らしさを、福本エッセンスで。それが面白くない訳が無いというのですよ。この辺の福本漫画の基本からズレてみる、というのは本職の福本先生も『最強伝説黒沢』シリーズで見せている仕手ですが、それを更に、よりパロディ的に押し進めたのが、この漫画であると言えましょう。そして、受け手を福本漫画スキーに中心しているのが分かる絵柄の選択からして、きっちりと狙っているのも分かり、成程、上手い漫画じゃねーの。と思うのでありました。