感想 樫木祐人 『ハクメイとミコチ』1〜4巻


[まとめ買い] ハクメイとミコチ
(画像のリンクが4巻の物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のまとめ買いのページ)

 大体の内容「ハクメイとミコチの生活」。小さい妖精サイズのハクメイとミコチが、その生活圏で色々やっていく漫画。それが『ハクメイとミコチ』と言っていいかと思います。とにかく、生活の地に着いた様が素晴らしく味わい深い漫画なのです。
 もうちょっと具体的な話をしますと、ハクメイ(大工仕事や細工仕事で飯を食ってる)とミコチ(主に料理で生計を立ててる)の二人の共同生活の中で、色々なことが起こる、という話です。それだけでもあんまり多くはない話なんですが、このハクメイとミコチが妖精サイズで、虫とかイタチとかと比べてもちょっとちっこいというのが更にあんまり多くはない話に拍車を掛けます。それでも、特別なイベントというかヒロイックなことが起きない、本当に生活をしている話でも、読んでいて大変面白い。これは結構、それ自体が面白いことなんじゃないか? そう思うのです。
 この辺の面白さの源泉は、高い蓋然性、というか展開にやたら納得させられる、という部分でしょう。突発的に無茶なことを突っ込まず、積み重ねていく流れの中でこちらに納得させるすべが、ただ生活をしているだけの話に説得力を与えているのです。例えば、ハクメイが大工仕事の大仕事、それも肝心要のを、したい! と棟梁に願い出て、でもそこでは駄目と言われたけど、腐らず仕事をしていたら、最終的に仕事を任される、というのがじっくりとページを使って描かれます。それが生むのが、高い蓋然性、納得です。こうあって欲しい、という読者側の想いを汲みとりつつ、でも簡単にはいかない。そこに対する積み重ねに重きを置く。そうやってある種焦らしを重ねて、ついでに読者にハクメイの姿を見せることで、積み重ねを見せることで、それが積み上がった瞬間のカタルシスをこちらに与えてくれる。それでもう、ハクメイ、良かったな! って気分にさせられる訳ですよ。奸智! とも言えますが、こういう奸智ならいくらでも弄してもらいたいですよ。
 さておき。
 この漫画の持つ魅力は先に書いた蓋然性の高さもですが、ちょっと変なたとえをするとMMO、ちょっと昔の、所謂ネトゲの生産職の楽しさと通じるものがあるかと思います。物を作るという楽しさが、大変さと共にこの漫画には溢れています。そもそもハクメイもミコチも、方向は違えど作る仕事をしているので、その仕事が生活と糧になるが故に、そこが当然メインになります。そこで、色々思案したり、考案したり、挫折したり、突き抜けたり、交渉したり、交渉されたり、という風に色々と目的に向かってくみあっていく。そこに、生産職ならではの面白さが詰まっているのです。そういうのが好きだった方には、堪らぬ味わいがある漫画ではないか。そう思ったりします。生産職経験が無いけど憧れだった自分には大変いい物だなあ、という風に感じれたので、幅は広いと思うんですが如何に。
 それはさておき。
 この作る、という部分に対しても蓋然性が高いのが、この漫画の基本からして当然であるのは論を俟ちません。魅力に対しても魅力が発動しているので、魅力は三倍段ですよ。4巻ですと、ハクメイがコーヒーミルを修理しようとする辺りのじっくりとコーヒーミルを解体していく所とかが特にこの漫画らしい点です。ちゃっと分解しないで、少しずつ、少しずつと動かない理由を探っていくのが大変良いのですよ。この辺の執拗とも取れるじっくりとした所でも、それ故にどうして動かなくなったかの理由への道がしっかり建築され、高い蓋然性を持って納得させられるのです。そうきたかー、と思いつつも納得する。そういう漫画が、『ハクメイとミコチ』なのです。ということで『ハクメイとミコチ』はいいぞ。と書いてこの項を閉じたいと思います。