ネタバレ感想 ゆうきまさみ 『でぃす×こみ』1から3巻


でぃす×こみ(3) (ビッグコミックススペシャル)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

この3巻で最終巻となります。
さておき、大体の内容「新人賞、たまさか受賞したけれど、それはあたしが、描いてない!」。
それから始まるドタバタと、兄妹二人三脚のBL漫画道。それが『でぃす×こみ』と言っていいかと思います。それではいってみましょう。
いきなり印象論を語りますが、ゆうきまさみ先生というのは変則手の描き手と感じています。様々な漫画の新たな地平を開拓しつつも、それは王道からの少し外れたところを攻めたからこそ生まれた場所、という感じに。個人的には『機動警察パトレイバー』終盤から『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』が直撃だったので、その感が特に強いのかもしれません。じゃじゃ馬みたいな競馬厩舎漫画、というのは色々ありますが、色んな要素をぶち込めるだけぶち込んで、それでいて馬の一代記みたいな話だったのが私には大変いいなあ、と思わせられました。
でも、そこはやはり正道ではない。ちょっとずれたところを攻めている。そう感じたものです。
そんなゆうきまさみ先生が漫画家漫画を描く、というのはかなり思い切ったことです。ある意味で、島本和彦先生が80年代、己の漫画家としての端緒を描く! と同じくらいに思い切ったことです。それだけでも十分なのに、描くのがBL! もう攻めと守りのリベンジ番長です。自分のことを語らない、けど漫画家漫画、更にBL! 三段ドロップとはまさにこのことでしょう。
さておき、お話の方は、漫画家志望の渡瀬かおるさんが新人賞を受賞して、その授賞式に行ったけど、ここ、描いたの出したところじゃない! BLなんて描いた記憶ないし! という状況からスタートし、それ送った主である実の兄、弦太郎と二人三脚でBL漫画を描いていく、というものです。で、かおるさんが最初は弦太郎のアイデアをなんとか落とし込んで漫画をしたてていくんですが、その内自分でなんとかできるようになっていって、という成長譚であります。2巻序盤まではおっかなびっくりでしたが、2巻後半から3巻にかけると漫画家として鍛えられてきて、最後には兄弦太郎の出した、新人賞を取った作品を己の様式で描いていく、という成程しっかり成長譚なのです。そういう意味では、この漫画がきっちりとすることはした、と言えるかもしれません。
言えるかもしれない、という含みを持たせたのには当然理由があります。それはすっごく打ち切りみたいな強引さで最終話がこなされたことが、それです。やろうと思えば、まだ色々と枝葉があるんですよ。八反田さんが、もしかして受賞作描いたのはかおるさんじゃない? って疑惑をもっているターンとか、弦太郎さんを絡めた恋愛模様もどきとか。あれはやろうと思えばもっとかなり話に組み込み出来るものがあったのでは、とも思ってしまうのです。特に弦太郎さん関係は三角関係が生まれる可能性があったんですよ! 何それちょっと見たかった!
それを加味して再びゆうきまさみ先生の話に移りますが、この漫画のハードルが無駄に高くなったのも、連載が割とさっくり終わった理由かな、と邪推してしまいます。というのも、全ての話で最初の数ページをかおるさんが描いたBL漫画で彩るのです。そのネタだし、及び描き方がかなり負荷だった、というのが毎度の巻のあとがきから察されました。しかも全く関係ない話としてあるならまだしも、かおるさんが描いた漫画ということで話の中核になるので、軽々に出来ず、それが更にこの漫画が強引なオチへと向かった要因かしら、とも思ってしまいます。まあ、先に書いたように邪推ですが。
しかし、3巻完結ですがオチがやや強引なこと以外は大変綺麗に話が収まっております。最初に弦太郎さんの「でぃす×こみ」から始まって、最後はかおるさんの「でぃす×こみ」へ向かっていくことで〆る。それも、兄に力を借りて、ではなく自分の力で。この綺麗な形はまさしく神業というやつです。そういう意味でも流石に長年漫画描いている漫画家さんは恐ろしいな、と思わされます。この御業で、次の連載も頑張っていただきたいところです。
と何様調でこの項を閉じたいと思います。