感想 平松伸二 『そしてボクは外道マンになる』1〜3巻


そしてボクは外道マンになる 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
そしてボクは外道マンになる 2 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
そしてボクは外道マンになる 3 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「これぞ平松伸二の生きてきた、道程」。
平松伸二、という名前を聞いて何を想起するかで、その人の漫画人生というものはしっかりと浮かび上がってくる、というのが私の持ち論です。全く浮かばないという人もいるでしょうし、終わった漫画家だと思う人もいるでしょうが、いやいやそれがまだまだ捨てたものじゃあない。そう思う私のような方もいらっしゃるかと思います。そんな人によっては巨大なメルクマールとして燦然と黒く輝く平松伸二先生の自伝的漫画。それが『そしてボクは外道マンになる』なのです。
この漫画を語る上では平松伸二論はしないといけません。その自伝的な作品ゆえに、どうしても平松伸二先生のことが話の中心になる。なので論として展開することになるのですが、それは最後に回すとして、この漫画の面白みについて話を開いていきたいかと思います。
この漫画の面白み、というのは70年代ジャンプの時代の空気を味わえるところとか、漫画業を長く続けたがゆえに自伝的なのに自分のこと以外の憶測を平気の平左で描いてしかし納得させられる腕前になっているところとか、1巻及び2巻ではそういう部分が面白いんですが、3巻になるとその雰囲気がいきなりおかしくなります。
というのも、平松先生の分身、外道マンがいきなり何の前触れもなく出てくるのです。本当に前触れがないので、俺、2巻最後らへんでなんか見落としてたっけ? って素でなってしまいました。それほど唐突の登場なのです。そして外道マンが大変メタメタしたことばかり言い出すのです。この辺が大変に、人によっては作品の毀誉褒貶のレベルが変わってくる部分ですが、個人的には外道マンの言うことが真っ当というか、早く『ブラックエンジェルズ』に入ってくださいよー! の一派だったのでかなり好きです。隔週刊のGJに移ったところで前回の流れぶった切って唐突にGJ編集部はおっさん(外道マンの平松先生の呼び方)を過労死させる気なんだぜえー! とか言い出したりもして、それもまた、平松先生が少しそう言うの思っているんだろうなあ、というのがあって楽しくみれます。姿がリューク(『DEATHNOTE』)っぽい、というかリューク参考見え見えだぜーっセンスねえなあ−!て外道マンが言ったりする部分も含めてなんとなく萌えキャラ感があっていいのです。平松絵の外道が入ったリュークだけどな!
さておき。もうちょい話を内容の方に。
1巻2巻は『ドーベルマン刑事』の時代です。武論尊先生原作なそれを描く辺りは、まだ外道マンの片鱗は薄く、一端の自伝漫画の趣きです。平松先生が初々しいのから徐々に漫画家慣れしていく、という場面と言えましょう。伏流として青春的な色恋の話もあります。本当にこの辺りは真っ当です。
しかし、それでは我々平松伸二スキーは満足できねえぜ! と鬼柳京介顔になってしまいます。そうなんです、一端の自伝漫画の趣きが過ぎるのです。
それを筆力できっちりやっているのは評価できるんですが、2巻から出てくる編集者、Dr.マシリトの元ネタの人の言である、そんな甘っちょろい話を描くのは平松君の主戦場じゃないよねえ! もっと鬱屈した怒りで描くのが君の持ち味だよねえ! という言葉を聞いて全くその通りだ! と思ってしまうのです。
この点についても『リッキー台風』時代から『ブラックエンジェルズ』の端緒へと向かう3巻で、外道マンがしつこいくらい言ってくれます。外道マンの言なのでつまり平松先生も薄々分かっているけど、まだそのタイムじゃねえんだよ! ということなんでしょうか。3巻最後に、『ブラックエンジェルズ』のネームを切るところで終わるので、こっからが真の見どころではあります。実際、こっからが平松先生の漫画家人生の一つの頂、からの転落して地獄、からのまた一つの頂に、という素晴らしく平松先生の外道マン精神がさく裂する時代なので、どういうテンションでやってくれるのか今から楽しみで仕方ないのです。この漫画は4巻からが爆発的に面白い、って評を後世でされるのは間違いないですよ。
さておき、後で書くと書いたので、平松伸二先生がどういう漫画家か、という話をします。
単純に言いまして、平松先生はジャンプというものの生き字引であると思います。その栄光も、奈落も経験した、稀有な漫画家なのです。ジャンプレジェンドの漫画家さんでも、ここまで浮沈の大きかった人はそんなにいないんじゃないかと思います。
キャリアの序盤は『ドーベルマン刑事』、『リッキー台風』、『ブラックエンジェルズ』と大きさの差こそあれヒット作を出していたのに、『ブラックエンジェルズ』以後は何度も打ち切りを経験し、その後少年誌から移動して青年誌でまた一つ花が咲き、そこからまた徐々に衰退していって、昔の作品の余禄で食っていたところに、自伝的漫画。ここまでのアップダウンをして、ある意味ではジャンプという場所のすべてを網羅した、といって差し支えないかと思います。
そんな漫画家である平松先生だからこそ、この自伝的漫画が最後の徒花として咲き狂うようになるんじゃないか、と思うのですが、打ち切りにならないといいなあ、とも。さっきも書きましたが、たぶんこっからがこの漫画の肝になってくるはずなのです。平松先生がどこまでの外道マンになるのか。そこがとても見てみたい。色んな意味で『ブラックエンジェルズ』は平松先生のメルクマールですからね。どうなるのやら。
とかなんとか。