感想 関口太郎 『ゆるさば。』1巻


ゆるさば。(1) (ヤングマガジンコミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「ある日突然我が家だけに!」。それは唐突に、しかし静かに始まります。ある日、唐突としか言いようがないくらいいきなり、裕木家以外の人間が、全く姿を消してしまったのです。その兆候も何も感じないくらい、ある日突然。そんな異常事態の中で、しかし逞しく且つゆるくサバイバル生活を始める漫画。それが『ゆるさば。』なのです。
何故人が消えてしまったのか、というのは完全に謎に包まれています。それを解明する情報を得ようにも、ほぼ何もない、というのが1巻での現状です。都心部に近づくにつれ、時間が長く経っているような状態に、というのが一つ重要っぽいんですが、この謎は解明されるのかどうか、結構怪しいなあ、と思うのです。
何故そう思うか、というとことは単純。裕木家の人々は、そこを主題としていないからです。一応次女のモモさんはこんな状態おかしいから早く帰りたい! としていますが、長女ツムギさんとお父さん、そして三女のリンさんはこの状況を満喫しているのです。一応、すぐにも帰りたいは帰りたい、としていますが、皆さん状況の把握からこっち、好き放題です。お父さんは生物の関係の研究職から先生になったからかこの人類が絶滅したかのような状況での生命の戻り具合に感服していますし、ツムギさんは野性の獣から身を守る為として銃器を手にしてしまいますし、リンさんは小学生らしく天真爛漫です。
そういう状況でこの状態はおかしい、と気を吐くモモさんも、服とか好き放題に? というのでテンション上がったり、釣り要員にされてまんざらでもなかったり、とお前がしっかりしてくれないと、読者孤立無援じゃねえか! な塩梅です。ということでここに、ゆるいながらもサバイバル、謎はあるけど気にしない。そんな『ゆるさば。』が開始されるのです。
さておき。
この漫画で良いなあ、と思うのは、先生という仕事から解放されたお父さんが活き活きと生物観察したりしているところでしょうか。私も年を取ってしまっているので、出来なかったことをやり直す、というのは大変心に去来するものがあります。夢、という程には大きくはないんだけど、でもしたかったことを諦めたのが、また可能かもしれない。となればそりゃ心情察するに余りあります。ついでに自分の身の場合を鑑みたりもします。そういう、大人の大きな夏休み、という感じも、この漫画のゆるいサバイバル感に一つ影響を与えているのかな、とも。ある意味、押し殺していた生命力が発露した、とでもいいましょうか。それがこの漫画の一つの層を形成しているのでは、とか。
もうちょっと影響力の層、となると女性陣の生命力もまた、影響しているでしょう。個人的にはツムギさんのどういう世界なのか分からんけどなるようになる。といういい意味での図々しさが好ましく思います。確かに、異世界なのかなんなのか、とにかく人がいない、絶滅したかのような世界なんかにいきなりきたら、考えても仕方ないんですよ。でもモモさんみたいに割り切れない、というのも分かる。でも、ここは暗くなってもしょうがなくね? ってスタンスが、一周回って地に足のついた感じになっているなあ、と。この辺の精神面の安定感も、ゆるさに加担している、と言っていいでしょう。
そんな、単にゆるい訳じゃないんだけど、でもゆるいのが、『ゆるさば。』なのです。