感想 木々津克久 『開田さんの怪談』


開田さんの怪談 (少年チャンピオン・コミックス)
(画像のリンクが物理書籍のページ、文章のリンクがkindle版のページ)

大体の内容「お耳を拝借、というのがこんなエロいとは」。
生瀬君の隣の席の女の子、開田さん。ちょっと地味だけど中々に美しいその子に、生瀬君は怯えています。なぜなら、彼女は怪談話したい系女子だったから!
ということで開田さんの怪談に終始怯える生瀬君と、その様を見て鼻血すらだす開田さんの戯れ。それが『開田さんの怪談』なのです。
この漫画の主軸は二つ。開田さんの怪談と開田さん自身です。基本、開田さんを生瀬君寄りで見ていきつつ、そこに怪談がぶっこまれて最後は生瀬君の怖がりっぷりを開田さん寄りになる、という一往復で一話終端を迎える漫画となります。なので、開田さんの怪談と開田さん自身、この二枠で見るのが正答であると言えましょう。言えなくてもそれはどうでもいいのでこの二枠で見ていきます。
まず、開田さんの怪談。題名にすらなっているので、当然ここがこの漫画の主軸です。で、この怪談、木々津克久味なのです。
なのです、と言われてもすぐにピピンとピントしないと思うので端的に言うと、エキセントリックでグロテスク。でも、ギリギリ視聴に耐えるという絶妙な生々しさ。『フランケン・ふらん』で見せた映像的グロテスクと精神的グロテスクが、この漫画でも全開です。むしろあの頃より制限がある、何せ一応少年誌である週刊チャンピオン誌ですから、のをバネにしてしまったかのような、攻めっ攻めのギリッギリのグロさです。この漫画単巻で終了の形になっていますので、一気呵成にテンプレートを作りだしてから後、色んな仕手、崩し手で魅せる美技もあります。ある意味で木々津克久オンステージ! の様相すらあります。
さておき。
怪談。これがまた絶妙なのが、無さそうだけど実はあるのでは? というギリギリのラインを攻めているところでしょう。一話目のイリエキセイマイマイなどは、あまりのネタぶりについつい検索してしまいたくなるものです。生瀬君が検索してヒットしている、というので実際にあるのでは? という架空が現実を絡めとる所作として大変優れたものとなっております故。そこから最後にもう一押し、とするのが開田流。そこで、え、マジで!? となってからのオチは、大変いいものなので皆さんも是々非々にも見ていただきたい!(モズクズ様声で)
さておき。
この漫画のもう一つの軸、開田さん自身。これがまあヒットする人には大当たり案件です。眼鏡黒ロンは七難隠すって言いますもんね。ということで大変一部には大ヒット確定な開田さんですが、それ以上に彼女の怪談を話す様というのが大変良い。基本、コマ割りを廃してされるそれは漫画という表現に対するある種挑戦状を突き付けている訳ですが、そこへの導入である「お耳を拝借」の時の開田さんの表情の妖艶さときたら! ある意味で大型獣が獲物を捕まえる、つまり捕食の瞬間なので、そりゃ大変魅力的な訳ですよ。
で、話した後の生瀬君の状態を見て、ついつい鼻血を出してしまう、というのが一種お間抜けなんですが、それが逆に開田さんの良さを引き上げています。超越者的に生瀬君に怪談を話していた彼女の、俗な部分というのがその鼻血で表されている訳ですよ! この振れ幅! 鼻血キャラも七難隠すって言いますもんね。
後、超越者面な立ち位置が多いように感じる開田さんですが、まだまだ青春期である、という感じで描写されるところも多いのです。第8話目の、生瀬君に怪談に絶対にノウ! されてからの行動が、生瀬君サイドからするとこう見えるけど、もしかしてこれ、と逆の方向からを想像すると、大変良い物なのです。あとがきにもそう書いてある。ここを見れると、更に大変良い開田さんだと思えるようになるかと。
この辺のキャラクターの良さというのが、木々津漫画の良さだなあ、とも。
さておき、これ続きないんですか!? と書いてこの項を閉じたいと思います。ないんですか!?