塩野干支郎次 『プニプニとサラサラ -あるいは模型部屋の少年と少女における表面張力と毛細管現象-』1巻

プニプニとサラサラ 1―あるいは模型部屋の少年と少女における表面張力と毛細 (ヤングキングコミックス)
プニプニとサラサラ ―あるいは模型部屋の少年と少女における表面張力と毛細管現象―(1) (ヤングキングコミックス)

 大体の内容「気になるあの子と模型作り!?」。祖母の遺言により、祖母の経営していた模型店を相続することになった更科匠海くん、高校一年生。細かいことはきにしなくてもいいらしいので、ならいいか、と契約手続きに出向いた先で、中学の時の憧れの的で、今、人気急上昇中モデル、藤文夏さんに遭遇。そう、彼女は模型マニアだったのです! から始まるミラクルな模型製作物語。それが『プニプニとサラサラ』なのです。
 この漫画を読んで出た言葉、というは「真っ当」でした。女の子がわちゃわちゃ出てくる漫画としても、模型漫画としても、どちらも真っ当の文字が似合います。当たり前のことを真剣に取り組む。そこから生まれる真っ当さが、この漫画の良さです。至近に木々津克久『開田さんの怪談』を読んでいたのもその真っ当さにくらっと来た理由でしょう。だって、開田さんの方がラブコメ時空を出してくるとか思わないじゃないですか!
 というこの漫画についてに関係あるけどしなくていい漫画の話はさておき。
 この漫画、真っ当と言えば聞こえはいいものの、油断すればベタになってしまいかねないくらいにオーソドックスな攻め方をしてきます。憧れのあの子が僕のこと知ってる!? とか、その彼女が色々教えてくれる!? とか、お風呂で鉢合わせ!? とか。しかし、これが単にベタにならないのは、こちらも油断すればベタになりそうになりかねない、模型話があるからです。
 この漫画の模型話は知らない人である私からすると、大変きっちりとしています。もうちょい玄人だとどうなのか、という疑問もありますが、そこはどの道分からないのでうっちゃって、自分がどう感じたかに注力します。と、きっちりとは勿論、大変丁寧である、と言えるかと思います。その手のにあまり知識がない私でも、成程そういうのがあるのか、とか、そういう違いで接着剤の使い分けが、とか、ピンセットにそんなに分類が! とか、とにかく無知ゆえにへーボタンを16連打する場面が沢山あります。この辺、匠海くんが初心者なのが奏功している部分。彼の知識習熟度に合わせて話が進む、というのが読者の方の知らない向きにも分かりやすく感じる要因です。こういうのへの入り口としては大変いいものかと思います。その辺も真っ当と感じさせる一因でしょう。
 しかし、こういう趣味の話は掘れば即沼になりかねない、あまりにマニアックな攻め方も可能な領域です。この漫画も、そう言う部分はあるよ? というのを仄めかす部分は結構あります。が、そこは軽く触れる程度で踏み込まない。あるよ? としつつも深入りしない。このバランス感覚は、ラブコメの方のバランス感覚とも連動しており、お互いがベタベタになりそうなところをうまくバランス取ることでベタ落ちをギリギリのラインで押しとどめている、という解釈を持ってみたり。
 あくまでベタなラブコメの雰囲気を、模型の話で引き締め、また模型の話でマニアックになりすぎそうなところを、ベタなラブコメで緩める。例えば、この、ラブコメと模型の二輪によって、この漫画は成立している、と。そう言う意味では大変テクニカルな漫画だ、ともいえるでしょう。あるいは、ベタを出来る力と、それを上手く操縦する技術が合わさった、とも言えるでしょう。
 そういう塩野先生のテクニックの冴えを見る漫画なのも『プニプニとサラサラ』なのです。長く続いてほしいなあ。次の巻で終わりとかじゃないといいけど。