ネタバレ感想 よしむらかな 『ムルシエラゴ』14巻

ムルシエラゴ(14) (ヤングガンガンコミックス)
MURCIÉLAGO -ムルシエラゴ- 14巻 (デジタル版ヤングガンガンコミックス)

 大体の内容「下水道大脱出!」。13巻で何者かに取っ捕まり、下水道の中に連れ込まれた鳴海さん。気が付くとそこには、同じ境遇の女の人たちが。その救出の為に黒湖も動くものの、無事助けに行けるのか。そういうサバイバーな<死が2人を分かつまで>編。それが『ムルシエラゴ』14巻なのです。
 今回は異常な状態のゴールドマリー&ローズマリーから逃げる、という鳴海ミッションと、それを助けに行く、という黒湖ミッション、そして豪遊のひな子ミッションの三つが並行して描かれます。基本、鳴海ミッションと黒湖ミッションは互いの距離を詰めるものなので最終的には合一しますが、ひな子ミッションは本当に只の豪遊で、それによって鳴海ミッションと黒湖の残酷さを引き立てる要員という以外の言いようがない状態です。それにしても、そこでの象徴的な台詞が、黒湖ミッションの最終ターンに重なってくる、この編の名前な訳ですよ。なにこの残酷。
 さておき。
 鳴海ミッションと黒湖ミッションは最終的に交わるものですが、それが上手くいっていたというのには黒湖ミッションと合一すれば絶対大丈夫、という妙な安心感がそこにあったからだと思います。黒湖だけが持つ、異常なまでの安心感、と言えましょうか。
 ぶっちゃけますと、この漫画において黒湖はデウスエクスマキナな存在です。能力的にも高いのですが、それ以上に奸智に長けている、いや、自分の出来る部分以上の面倒事に手を出さない節がある、と言えましょうか。11巻後半から13中盤までかけて行った<剣聖>編で、そこら辺がはっきりしたかと思います。あの、勝てる試合なら全力で勝ちに行く、という所作は、勝てないならスルーするという部分の逆さ絵では? という風にも見えたのです。実際剣聖姉が藍子さんをとり損ねたのを理解して割って入る辺りの所作は、やはり確実に勝てる所に敏感である、というのを感じさせます。あそこで藍子さんが死んでたら? というか、黒湖が積極的に人を助けるのが未だに若干の違和感があるんですよ。お前実際そういうタイプじゃねえだろ、と。
 その点は仕事だから、という部分なんでしょうが、黒湖の基本的に命の危機に敏感なくせに、命には無反応、あるいは価値を感じていないという部分もあります。この巻だと、うららさんにゴールドローズへ向けておもいっくそ投げられた時の緊張感が、己の命も他人の命もな危機がそこにあるのに、それが全く無いさまで冷静にというには温度が全くない思考をしているところがそれです。冷静や落ち着いている、ではなく素、凡庸な状態で、状況を見ている、というのが提示されてきます。ヤバい奴だとは知ってたけど、それを軽く上回るヤバさだというのを、あまりに軽く、あっさりとした描写によって、こなされるとさすがにくらっと来ます。うららさんの腕力ならものの1秒も無かっただろう状況変化にさくっと追いついただけではなく、ゴールドローズにハリケーンラナを敢行出来る思考の素早さと落ち着き、そして身体能力。やっぱり、こいつヤバい! 俺じゃなきゃ見逃してたね。そんな気持ちにさせてくれます。
 なので、この人が来たらもう大丈夫、という部分をきっちり見せつつ、鳴海ミッションが危険極まりないけど、会えたら、という仕掛けで展開したのは美味いものでした。会えば大丈夫なんだけど、会えるの!? って展開をきっちりした匠の技ですよ。デウスエクスマキナがある、けどそこに辿り着けるか、という部分でホラーな内容。そういうものだという理解を活かしつつ楽しませる、GOOD JOB。よしむらかな先生がどんどんと巧みになっていくのは、嬉しい限りですよ……。
 さておき、黒湖ミッションに辿り着くまでの鳴海ミッションは凄惨なものでした。目の前で死人が出るし、その死人を囮にする為に腹を裂くし、最終的に鳴海ミッションはゴールドマリーを鳴海さんが手ずから殺す、という形で決着するしですよ。基本殺人鬼な黒湖がやると軽くなってしまう、という部分が分かっているからこそ、そして鳴海さんのある種の感謝が出てくるからこそ、鳴海さんの手で、という部分がずん、と重くくるという、タツジン! と言わざるを得ない展開でした。ここで黒湖がさくっと殺さなかったというのが、逆に黒湖が如何にあっさり殺すか、つまりヤバいかがきっちりと分かるシーンとも言えましょうか。重い展開しつつ、黒湖ヤバいを気づかせてくれる。いくら気づかせれば気が済むんだ! という気もしますが、いくら言っても言い足りないということでしょうか。
 さておき。
 今回の巻のボーナストラックは、藍子さんと凛子ちゃんのおねロリ、大変にいい。というものでした。じきにガンに効くようになりますよ。単なるおねロリではなく、凛子ちゃんの暗黒面、つまり殺人鬼という部分への現状の気持ちもなんとなく知れて、それも含めて良い物でした。黒湖が殺人に躊躇とか呵責とか一切ないから、他のキャラが割を食うよな……。でもありますが!
 とかなんとか。