ネタバレ?感想 双見酔 『ダンジョンの中のひと』1巻及び2巻

ダンジョンの中のひと : 1 (webアクションコミックス)
ダンジョンの中のひと : 1 (webアクションコミックス)

ダンジョンの中のひと : 2 (webアクションコミックス)
ダンジョンの中のひと : 2 (webアクションコミックス)

 大体の内容「ダンジョンは斯様に運営されているのだ」。ダンジョン管理物、というのは古来よりあります。ゲームですと『カオスシード』や『巣作りドラゴン』という傑作がありますが、それ以外の創作物でも、その形というのは脈々とあります。
 爾来、人は作ることが好きです。しない人はいますが、嫌いな人はそんなにいないのでは? 手芸や料理も、小説執筆もゲーム制作も、広義では作ることですし、その一環として、ダンジョンを作る、という方向性はありだと、私などは思います。
 そういうダンジョン作りネタの中で、この漫画を定義するなら、やはり双見酔味が全開になっている、という理屈を述べる事が出来るでしょう。
 双見酔味とは? それは妙な部分への理詰めと、素早いコール&レスポンスです。
 双見酔先生というと『セカイ魔王』というまおゆうへの勝手なアンサー作品がありますが、あれも魔王というものに対する理詰めなんだけど、その理路!? という妙な理詰めが特徴的な作品です。魔王の呪縛を解いていく在り方と、それに対してのアンサーにもなる勇者の在り方が、ある意味で魔王と勇者というものに対するマストアンサーまで行く作品なのですが、それについて書いている場合じゃないので、そこは脇にうっちゃります。
 さておき、双見酔先生は変な目線が多い漫画家ですが、その妙な目利きを、ダンジョンという部分に持ち込んだのが、この『ダンジョンの中のひと』です。
 この漫画は、初手はダンジョン攻略の側面からスタートします。ここでまず視点キャラクターであるクレイさんが登場し、ダンジョンを攻略していきつつ、このダンジョンがどういう類か、フロアガーディアンとかそういう類の情報を提示してきます。
 この形が、強敵であるミノタウロスっぽいやつとの戦闘で、いきなり砕け散ります。物理的に、壊してはいけない場所を壊してしまうのです。
 ここから、今まで積み上げたダンジョン攻略物が裏返り、ダンジョン経営物へと移り変わっていきます。
 ここの、サパっと切り替える所作は、双見酔漫画出ないと摂取出来ないアトモスフィアです。人語を介さないと思っていたミノさんがいきなり喋り出しますし、超強い気配で出てきたのがぽやぽやした感じの女の子だったり、あまりに落差の強さに、鋭いローキックをももに食らって態勢が崩れる感じを味わいます。
 ちゃんと緊張感のある戦闘から、いきなりぽやぽや女の子出てきたら、崩れますよ。しかも、ダンジョン運営しません? って言ってきます。なんだこれ!? という唐突感のままにあれよあれよとされてしまう。
 ですが、そのぽやぽやさんが、実は超強い。特に変身などもなく、そのままで強い。かなり無双していたクレイさんが全く相手にならないレベルなのです。
 というので、崩れた態勢に対してその流れを殺さず、美麗にアッパーカットされる感じでKOさせられる見事な流れをぶちかましてきます。
 ここまでこちらの感覚を砕いて、ダンジョン運営という現実へとスライドしていくのです。
 このスライドするという事態で、更に謎のダンジョンの謎がとけられた! していくのが、また面白い。
 ダンジョンに関する色々な謎に対して、案外管理人さんがかなり適当にやっている、というのが見れるのが、特にいい所です。
 特に意味もなく来客用の寝室を作っていたり、解放頻度の高い低層階の宝箱の中身を苦心していたり、そのアイテムを仕込むのまた面倒だったり、ダンジョン階層内容の入れ替え中はその上のフロアガーディアンのとこを戦闘中にして止めてたりと、謎の裏にあるダンジョン運営の世知辛さが出ていきます。
 特に世知辛いのは場所が人の国の一角に唐突に出来たがゆえに、その王に話を通していたりするところ。その上で、手合わせして国側が勝ったらそのダンジョンの権利を国に、となっているところも。ダンジョンがいきなり湧いてきたら、そういう利権とかもあるのです。という面構えで堂々とお出ししてくるのが流石です。
 実際、2話目のマクラでダンジョンの周りに人が集まり、経済圏になったという類の話をしてきます。
 他にも最も裏で動き易いシーフギルドとも手を結んでいたりと、そういう世知辛さが満載です。
 成程、確かに知りたくなかったダンジョンの真相です。
 こういう理路、理詰めがこの漫画を特異なものにしているといえるでしょう。
 あと、双見酔漫画と言うと素早く復唱する高速レスポンスですが、それはこの漫画にも健在です。ここの畳みかける復唱は双見酔漫画のレゾンテートルというか、分かちがたい要素なのですが、それゆえに双見酔漫画のテンポを支配しているやつです。
 これの良さはボケ的要素に対する反復が素早いので、小気味いいけど何かが違う感覚としてたちあがってくることです。特に、そのコマの締めとして反復が使われることが多く、この会話で特につっこむべき所を自ずから立ち上げる形をみせてそこで会話の印象を強める効果を出しています。
 これにより、読後感が完全に操作されている訳です。それゆえに、色々な部分が印象に残りやすくなっています。個人的には1話の「モンスター雇用」の研ぎ澄まされた味わいが好きです。
 さておき。
 斯様に、ダンジョンを、運営側から見たら、というネタを双見酔味にきちんと仕上げているのが『ダンジョンの中のひと』なのです。