説明オーバードライブ

運命の巻戻士(1) (てんとう虫コミックス)

また雑なことを思いついたのである

 皆さん、アカデミー賞の一部門を獲った『ゴジラ -1.0』は鑑賞されましたでしょうか。拙も珍しく映画館に足を運んでカカッとみました。ゴジラの熱戦発射シークエンスがクソかっこよかったのが印象に残っています。男の子はああいう必殺技を撃つ前の一つなぎの行動というのがどうしても好きだからよ。『仮面ライダー カブト』のライダーキックのシークエンス、1、2、3、とボタンを押してからの「ライダーキック」、のとこがドツボな人だとあのシークエンスは堪らぬものがあったのではないかと思いますし、実際私は堪らぬものでした。
 どうでもいい話さておき。
 そのゴジラ、ストーリーラインというか、一々口で言うという部分が多い、というのがよく言われます。それについてはイグザクトリィであるなあ、とは思います。
 でも悪いことではないのかも? とも思ったりするのです。
 今回はその点を、つい最近になって面白いという話を聞いて買いに走れ! ニンジャスレイヤー走れ!! して1巻を買ってきて、音速で読み終わって続刊がまだある! と小躍りした、木村風太『運命の巻戻士』の様態から考えてみたいと思います。

悲劇の! 運命を! 巻き戻せ! 説明ッ!!

 悲運により死んでしまった人を、その悲運から救う時空警察特殊機動隊、通称<巻戻士>であるクロノが、時間を巻き戻して事件を解決していく、というのがこの話。
 所謂タイムリープものですが、わりと脳筋というか、失敗したら即時間を巻き戻してやり直す、解決するまでやる、というのが基軸で、そういう意味ではかなりライトに時間を巻き戻しているのが特徴的です。
 感想はまた別に書くつもりなのでその辺は抜きにして、何故ゴジラに対する引き合いに出したのかをカカッと説明します。
 何故取り上げたが、というと、巻戻士は説明の仕方というのが、非常に微に入り細を穿つもの、もっと軽々に言うと説明過多なのです。本当に、説明がしっかりされている、いや、多いのでは? レベルなのです。
 しかし、『運命の巻戻士』が面白くないか、というと全然そういうことはなく、面白いのです。

何故こうも説明を?

 『運命の巻戻士』が説明が多い。これは掲載誌がコロコロコミックだから、という部分があります。
 オタ諸兄なら、幼少期にコロコロで育った人も多いでしょう。私はボンボン派ですが、それでも対立軸だったコロコロのことは当然知っています。
 ボンボンも性癖おかしくするとこはたぶんにありましたが、そういうモノをコロコロに壊された方も多いでしょう。
 コロコロはいまだに生存しているのもあって、現在進行形で性癖を破壊しつくすだけだあ! と某ブロッコリー顔しているやつです。ぷにるとかやばい。
 閑話休題
 そのコロコロは少年誌としてはリーチする年齢は週刊少年ジャンプなどよりは下の層となっているのはご承知のことと思います。
 その対象年齢の低さゆえに、『運命の巻戻士』ではかなり説明的に話が進展していくのです。
 それは、今、何回目の巻き戻しが起きているのかの表示から、状況から導きだされる狙いの行動は一つに収れんさせる展開をしたりとか。何かイレギュラーが入ればちゃんとイレギュラーだと伝えるし、今していることを台詞で説明もするし、図や絵でも説明する。
 この手厚すぎるくらいの説明は、多いという見方もできる。んですが、そこにこの作品の基幹がタイムリープ、というのが関係しているのは、諸賢ならお判りでしょう。

タイムリープは難しい

 タイムリープものは大概作り手も読み手も、これはこれで成立するんだよな!? という隘路に迷い込みやすい。
 あまりに情報を出さないと無理やり感があるし、出し過ぎると逆に全部読めていたとなったりする。ある程度は情報を出し、しかし出し過ぎてはいけない。
 そんな中で、これがどうなっているのか、というのが読者が分かりつつ、どうなるかが分からない状態にしないといけない。
 ここが結構な難所で、情報量の制御がミスると全部台無しになってしまいます。多過ぎても少な過ぎてもいけない。
 そもそも作者側もちゃんと考えてないと状況が内容がとっ散らかってしまう。わりと簡単に矛盾が生まれ出るので、相当考えないと作れないものと言えます。
 そしてそもそも、出した情報がちゃんと読者に把握されているか、という地点まで考える必要もあり、そんなの千差万別じゃい! なのもあって苦慮します。
 斯様、タイムリープものは大変難しい題材なのです。
 その点で『運命の巻戻士』はかなり危ない橋を渡っているように見えます。説明し過ぎ、情報流し過ぎじゃねえか? という心配が私にはありました、
 ですが、そこはちゃんとしている。全くの多弁なのに『運命の巻戻士』は面白いのです。

説明過多で何故できる?

 先述のように、『運命の巻戻士』は大変説明されます。今の状況がこうで、狙いがこうで、というのが手取り足取りです。
 それを一見すれば、説明しすぎじゃね? と先述の心配が出てきます。
 しかし、そこは一件コンプリート。何も問題ないのです。
 何故なら、情報の出し方、その取捨選択が完璧だからです。
 『運命の巻戻士』では基本的にタイムリープものの混乱の元である、今まで何があって、且つ何をどうしようとしているのか、という部分がシンプルにされています。
 その点は『運命の巻戻士』 の連載一話目で顕著です。
 一話ではタイムリープものであるのをちゃんと示す為に、大変シンプルなお題に対してどうこの漫画を紹介するか、というのをテンサイ級手管でやってきます。
 その1話目でやることは強盗から人を助ける、というシンプルさですが、そこの魅せ方はものすごく手をかけている。
 開幕の、何でクロノは先のことが分かっているんだ? という疑問を素早く解決しつつ、一話目の目標を確定させてそこに対する行動から、一つ捻った後にトドメの回答、というこの漫画の基本、というかほぼすべての漫画の基本が載っているという見事過ぎる一話です。
 『コミックマスターJ』の名台詞で言うなら、「面白い漫画はね、一話目で決まるのよっ!!」の領域です。
 さておき、そしてつまるところ、設定の理解に重要な部分は情報を微に入り細を穿つだけど、ストーリーラインなどの後からちゃんと見せる絵図に対してはきっちり小出してくる、そこを上手く絞るというやつなのです。
 これについてどう思うか、というので、話が『ゴジラ -1.0』に戻ってきます。情報の出し方の在り方、というお題目で。

情報の出し方の在り方

 『ゴジラ -1.0』は説明が多い、というのを『運命の巻戻士』を経由して話すのが今回の趣旨です。経由する地点が面白過ぎて回り道が過ぎましたが、今が巻き返しの時です。
 とはいえ長くなったのでサクッと書きしますと、説明が多いというのは別に問題ない、主眼がどこにあるかとそれに沿っているかが重要だ、という話がしたかったのです。どこに対してリーチするのか、というので説明が多いのもありになるのではないかとも。
 そういう視点で見ると、『ゴジラ -1.0』は広いリーチで考えているという見方もできると思うのです。ゴジラのネームバリューがほんのり高くなっている今、多くの人にゴジラを見てもらえるように、という配慮が、説明が口頭過ぎる、という意見の出る台詞回しになっているのだと。つまり、その方が分かりやすいという考えで行われていたのだろう。それを一概に悪いとは言えないのではないか。
 情報の出し方が、ここは分かりにくいだろう、というところをきっちりと埋める所作だった訳で、そこが言われんでも分かるわ! あるいは言葉以外でやれ! という人もいるけどそういうのがさっぱり分からない人も当然いる。
 そこを漏らさない方をとる、というのが『ゴジラ -1.0』の情報の出し方の在り方だった、と思うのです。

でも結局の話

 そういう話でしめたかったのですが、考えを巡らせると、普通に『運命の巻戻士』の情報の出し方が上手すぎるという地点に書いてて到達してしまいました。
 1巻は前提の部分をかっちりとやってこの漫画の基礎を読者に意識づけして、1巻最後の話から2巻にかけてで応用をし出すのとか、マジで優れ過ぎてて、推せます。
 説明過多に見えてやはり出すべきものとべきでないものの取捨選択センスもしっかりある。
 所謂ガキ向けというコロコロにおいて、相手の能力を計りつつ、舐めない。そして手も抜かない。理解する補助線はきっちり引いて、面白さの主線を逃さないよう誘導する。
 それができているから、『運命の巻戻士』は傑物として周知されつつあるのです。
 『ゴジラ -1.0』もその辺舐めた訳ではない。ちゃんと分かりやすくする、というのをしただけ、ともいえるんですが、リーチの部分でやや広く取り過ぎて、説明過多に感じやすい人が多く触れた、という部分もあるかなあ、とも。
 既存IP、それも日本産で大メジャー且つちょっと鳴りを潜めていた時期があるゴジラで、観る人の範囲を大きく選択した、再びゴジラを広めたいとしたのが、『ゴジラ -1.0』であり、それゆえに説明過多をうっとうしく感じる人も多かった、というべきなのかもしれません。
 そういう意味では、全くの新規IPの『運命の巻戻士』がここまでかっつりといい仕事をしている、というのが頭おかしいんですよ。日本の漫画文化が頭おかしいまであります。
 ウェブトゥーンとかの影響でそろそろ漫画も形態を変えないといけない時代になりつつあるそうですが、こういう漫画が生まれることが日本の漫画文化の強さだなあ、とか思うんですよ。コミックマスターJさんの、

漫画大国日本で漫画を読めない奴は死ね

 という暴論すら思い浮かぶくらい、これが読める人間で良かった、と思う次第です。でも『運命の巻戻士』は難しい題材をおガキ様でも容易く読めるように作られているので、少しの漫画読み練度があれば堪能できる、すげえいい漫画です。
 結局『運命の巻戻士』の話になってしまいましたが、なるようにならあね! というアホセル感で書いてたので、そうもなろう!
 と諦めの境地に辿り着きつつ、今回はここまで。