感想 内藤泰弘 『血界戦線』8巻

 大体の内容「レストランと病院」。今回はVIPを三ツ星レストランでもてなす「王様のレストランの王様」とクラウス達と因縁がある幻の病院の話「幻界病棟ライゼス」前後篇の、実質二本立て。前者がややゆるく、後者がガチマジ、という塩梅になっている、それが『血界戦線』8巻の概要なのです。
 「王様のレストランの王様」は先にも書いたようにゆるめ。締めるとこは締めてるけど、ゆるめ。クラウスさん達がVIPをもてなすレストランで、事件が起きる! と思ったか? 甘ぇ! という感じでさっくりと事件がほぼ未然に防がれるので、三ツ星レストランの食事のクオリティの高さでSAN値が下がりまくるという状況の方が印象に残り過ぎて、それ故にゆるいんだと感じてしまうんです。食事でSAN値が下がる、ってどんな状況だよ。って感じですが、実際に美食を嗜んでる+精神抵抗が高いというクラウスさんとスティーブン以外は全滅、VIPすらSAN値下がってザップと友好関係を築いている有様でありまして、料理名の名前の冒涜的な感じも相まって、とんでもない食事風景になっておりました。
 個人的には、内藤せんせの良さの一つはこのゆるさであると思っていたりします。内藤せんせというと基本ガチ燃え方向の手管が多い方なんですが、でもそれに対して偶に入る愉快なゆるさ、というのがそのガチ燃え展開を補強していると感じているんですよ。でも、それ以上にやはりそのゆるさのゆるさ加減が好きなんです。ゆるいなー、って感じ入れる、そんなゆるさ。凪のようで、単なる弛緩のようで、ゆえに一時の休息としての位置づけと感じたりもします。6巻収録(感想)の「ラン!ランチ!ラン!」のように、全体的にゆるいままの回とか大好き。この「王様のレストランの王様」も、そのゆるエッセンスがたっぷりと含まれており、シリアス面もあるもののどっちかというと瑣末で、だから最終的に誰しも食には敬意を払うんだよな、という思想も見える。そんなのなので、実は今まででも最高峰に好きな回だったりします。食大事。
 「幻界病棟ライゼス」はガチシリアス回。三年前の紐育崩壊の際にクラウスとスティーブンが居合わせた病院が、再び目の前に。そしてそこで三年前に水入りとなった血界の眷属との再戦! とマジで熱い回でもありました。弛緩する部分はザップ絡みで少しあるだけですが、そこもまたいい弛緩でありました。さておき、血界の眷属との戦いは都合二回。三年前のと、現在のとで、その三年の差がきっちりと出た戦いとなっているのが素晴らしい。決め台詞も効いています。こういう部分の燃え度は、やっぱり内藤節だなー。
 それにしても、組織壊滅! みたいな話はまだなんすかね。どんどんと無茶なキャラが出まくるという伝奇の基本メソッド上にある漫画ですが、でもちょっと無茶なの増え過ぎでしょう。今回だと分身医師て。菊池メフィストの延長線上ですか。そんな無茶が積み重なっていくと、何時か自分の重さで潰れてしまうんじゃないかと危惧してしまいます。それは大丈夫な漫画家さんだとは思っていますが、でも、大丈夫なのかなあ……。そんな杞憂もありつつも、ゆるさと熱さがある巻でありました、と言える、そんな8巻なのでした。