感想 せがわまさき 『十 -忍法魔界転生-』4巻

 大体の内容「転生衆VS古兵!」。今回の収録回でのメインは三人娘の父達VS転生衆。基本的に所謂試し割りという回であり、転生衆の強さというのを実地で検証させられ、そしてついに転生衆と十兵衛との対面となる。それが『十 -忍法魔界転生-』4巻の概要なのです。
 試し割りとはいえ、それの為の瓦である父達の速攻での積み上げもあって、そこで転生衆の力の具合が仄かに見えるのが、地味に重要な所かと思います。全員が等しい強さ、と言う訳ではないのがテクニカルであるなあ、と。たぶん、荒木又右衛門と宮本武蔵の間には結構な強さの差があるのか、というのが見えたり。この辺、森宗意軒が十兵衛を手に入れる為には転生衆が一人二人死んでも、とか言ってたのと対応する部分でしょうか。詰まる所、確実に十兵衛より弱いのがいる、って言ってる訳で、そこがこの試し割り回で仄かに見せている、というんじゃないかと。うーん、テクニカル。
 速攻の積み上げ、と書きましたが、それだけで十分にある程度以上には強い達人である、と知れる説明がするっと、しかし効果的に挿入されているのも、テクニカル。そして実際相性とかで転生衆と渡り合えるのも合わせて、強い人だったんだ、というのが見せられます。そして逃がす為に足止め役を、と、娘との別れという哀しさがきっちり組み込まれている悲壮感も相まって、本当に絶望的な戦いの中、試し割りとして割られるというのだから、真に無駄が無い。山田風太郎先生の代表作であるのがよく分かる展開です。
 そして、とうとう十兵衛との対面! 父とか親類とかいるのに、十兵衛はどうする!? と思ったらその前に転生衆の方が顔を隠せ! ってなってたのでその辺は華麗にスルーされる格好見たい。次回、つまり次の巻以降に覆面付きの対面がどうなるやら、ですが、なんか一人くらい死にそうですよね、転生衆。ここで一戦無しというのもなあ、と。一気にかかればあっさり倒せる形だけども、そこは丁寧に出来なくされてるから、とっとと帰っていく、というのもありだけど、でもなんか前哨戦は欲しい。その辺は山風先生とせがわ先生なのでたぶん上手く処理してくれるとは思いますが。どうするんだろうなあ、この状態。
 さておき。
 『魔界転生』の漫画、と言う事で色んな所で文中にないだろう細かい、でも印象に残る場面を描いてるこの作品ですが、それでもやっぱり何故、と思うのは宗矩がツインテールな事です。髪の量がないから、細いんですが、どう考えてもツインテールなんですよね、あれ。それが娘追走戦で魅せられてしまって、シリアスな場面なのにツインテールだという事実がどうしようもなく腹筋に来るんですよ。あれはちょっと失敗じゃねえのか? とも思うんですが、それだけ魔人となると色々吹っ飛ぶという表現でもあるので、ツインテールと言う事実に慣れていくしかないんだなあ、とも。あれで死ぬ時にツインテール解除しだしたら腹筋が死ぬのでやめていただきたいですが、さてどうなやら。
 さておき。
 この作品の凄味、というのを最近になって気づいてアイエッ!?たのでメモ代わりに書いておきますが、転生衆って大体講談とかの主役、つまりある意味では物語の勝者である訳ですよ。特にほぼ一代で天下の剣となった柳生宗矩と、同じく一代で剣豪として名を馳せた宮本武蔵は、ある面では確実に勝者であります。しかし、その勝者が、実はこの人生、この勝利で良かったのか、と倦んでいた、というのが挿入されるのがこの作品。それが何故転生なんてするのか、と言う部分に対しての解答として立ち上がっている。勝利しても、その勝利に納得できなければ何の意味もないという事なのかな、というのと、その対比として、では十兵衛はどうなるのか、というのと、更にこうやって敗者として堕ちる事で、その後に十兵衛に負けるというもう一段の敗者としての役割を担うんだなというのがを三つ同時に気づいてしまって、こうやって書いてしまうくらいにはテンションが高まったのです。でも、実際に人生の勝利って何がいいのか分からないというのは重いです。考えて答えの出る物でもないんですが、それでもふと考えてしまいます。
 とかなんとか。