感想 鈴城芹 『ホームメイドヒーローズ』1巻

 大体の内容。「目指せ!戦隊ヒーロー!」。戦隊ヒーローを目指す一家の、でもそれちょっとどころじゃなく難題しかないですよね? という面構えをしつつどうしていくかが理詰め展開される漫画、それが『ホームメイドヒーローズ』なのです。
 鈴城芹せんせというと、理を持って事を為す印象がある漫画家さんであるというのが世の中にあるように思います。その分、理を求め過ぎる傾向がある、それが展開を縛る面があるとも言えますが、逆に言うとそれでしか到達出来ないあわい、理で求めるがゆえにこの展開ってよく考えるとおかしいよね、という掘り出し方も為される訳で、そういう漫画がこの広い漫画の裾野にあってもいいじゃない。そんな「戯言だけどね」を弄してしまいたくなるくらい愛おしいのが、鈴城芹漫画の味わいだと感じています。
 そんな訳なので、この漫画もメインである仙台家が戦隊ヒーローを実現しようとするというお題目を持って進むのですが、それゆえに戦隊ヒーローのお約束というのがどう考えても現実だと実現不可能じゃねえか! というのもまた笑いの軸として存在します。しかし、そこで戦隊ヒーローを目指す仙台家は挫けません。それでも! という意思を持ってどうにかしようとするのです。そこの所が、『看板娘はさしおさえ』や『くすりのマジョラム』ではあるのが前提だった異端、前者が幽霊で後者が魔法、それらと近しい戦隊ヒーローという物への扱いが、また違う、無い物をあるにしようとしているというアプローチとして立ちあがっています。この辺が今までの鈴城芹漫画とは違う雰囲気を出しているのですよ。それがどう実現していくのか、というのが気にはなりますが、1巻の引きではどうやらもうちょっと魔法みたいなふわっとした技術でどうにかなってしまう雰囲気もあり、そうなったらちょっとなあ、とも思ったりしますが、そこは鈴城芹せんせの腕前、業前の見せ所でもあるから、きっちりと見せてくれるのを期待したい所です。
 キャラクターについての感想は三キャラ感想(こちら)で毎回の三キャラをピックアップ!してのがありますのでそちらを参照していただきたい。ここではもうちょっと大枠の話をしますが、これって家族の話なんですよね。それも、正義の戦隊ヒーローを目指す家族と、悪の秘密組織を目指す家族の話。更に、その接点があるようでないようでやっぱりあるようなという淡い繋がりがある、麻凛さんと阿久乃先生という部分の接点しかない、というのがなんとも。下手するとご近所トラブルで解決しそうな所もある訳で、そういう意味でも戦隊物としてのスケール感から逸脱しているけど、実際問題ではそこら辺が関の山なのでは、とも思えるのも、中々面白い所でありますし、正義の戦隊を目指す仙台家が苦労しているように悪を目指すという菅部家の方もそれはそれで苦労があり、でもこっちはふわっとした力が降りて来ねえかなあ、という立ち回りなのが対比できて面白かったりします。確かに、悪の組織側って戦隊の方よりふわっとしてるよなあ、とか。出所不明とか、宇宙からとか、戦隊を作るのより確実にふわっとしてます。その辺を意識的に組み込んでるのが好きです。
 さておき。
 皆さん、知っていますか! この漫画も曽新界隈サーガの一端であるという事を! と黒岩知事みたいな言い方をしましたが、そもそも曽新界隈ーガとは何ぞや、という事についての説明が必要でしょうからします。曽新界隈、それは鈴城芹家族ゲーム』の舞台であります。元が電撃4コマというゲーム雑誌のおまけゆえに<ソニー>から取られたネーミングな訳ですが、その界隈はその後の鈴城芹作品の舞台として登場しているのです。それが色濃くなっているのが、この『ホームメイドヒーローズ』でありまして、その証左として麻凛さんの友達として『家族ゲーム』の舞依さんと『看板娘はさしおさえ』の紗枝さんが登場しておりますし、烈人君の行っている道場に『JC探偵でぃてくてぃ部』の詩さんがいて、そもそもその道場の縁者が『家族ゲーム』にいるし、『くすりのマジョラム』の陸上部とかが烈人君の学校の先輩としているし、『家族ゲーム』のゲーム屋さんであるゲーム倶楽部もあるし、と枚挙に暇ありません。このスターシステムともまた違う、その街にいるから、そこにいる人達があっちやこっちやに、というのは鈴城芹ファンとしては大変楽しく、また描く方も新たにキャラ起こししなくても楽! というのでwin-winの関係にある、ある意味では結構変な状態であるかと思います。まあ、実際にはその分キャラ崩壊しないようにと大変なのかもしれんですし、知らん人からするとこの子何? と言う部分もあるかもしれませんが、こういう試みは楽しいのでもっと色んな分野で盛んになればいいと思いました。
 とかなんとか。