感想 伊藤明弘 『ABLE』1巻

ABLE 1 (1) (サンデーGXコミックス)

ABLE 1 (1) (サンデーGXコミックス)

 大体の内容「流石は銃撃戦漫画のマエストロ!」。もうちょっと詳しく内容を説明をすると、ある一つの、取るに足らないどこにでもある一丁が、あちらこちらへと巡り巡って、騒動の最中に常にある、という状況になるのを見る漫画です。ネタ的に大変映画のエッセンスが強い、けどそれを拳銃一丁に仮託するというのが銃撃戦漫画のマエストロと言われる伊藤明弘せんせの矜持、あるいは「だからこそだろうが!」という強い信念を感じる部分です。そんな伊藤明弘節全開なのが『ABLE』なのです。
 先に騒動の最中に常にある、と書きましたが、その騒動というのは本当に色々なのです。あるいは殺し。あるいは復讐。あるいは戦い。あるいは仁義。あるいは策略。あるいは偶然。ただ一丁の拳銃が巡りあうには分不相応な、そんな様々な出来事が、その拳銃の周りで繰り返されます。それも当然、銃撃戦です。伊藤明弘の真の骨の頂! 病気療養中であるというのは前々から仄聞いていましたが、それのリハビリにしてはネタの複雑さも銃撃戦のバリエーションもこれでもか! と魅せてくれます。伊藤明弘ファンとしてそれなりに長くやって、復帰待ちしてて、サンデーGXで描いているという話を聞いてわくわくして単行本を待った甲斐というのは、もう十二分にあるのです。だから言いましょう。おかえりなさい!
 さておき。
 銃撃戦をどう魅せるか、という一点突破がこの作品の持ち味です。そこについて触れるならば、やっぱり三つの無茶シチュエーションを上げなくてはいけません。その三つの無茶シチュエーションとか? それは漫画力で突っ切られて納得したけどよくよく考えるとそれ無茶ですよねえ! 出来る出来ないで言うと不可能ですよねえ! というシチュエーションの事です。無茶苦茶かっこいいんだけど、無茶苦茶まかり間違っている。でもいい。そういうシチュエーションの事です。一つずつ見ていきます。
 一つ目が殺し屋姉妹の空中曲芸。ある持ち物を持って逃げようとする相手を追って、それを取り返す。と書くと簡単ですが、それが行われるのは上空彼方。パラシュート無いと100%死ぬ高さから、パラシュート持った相手を追い、パラシュートを奪い、それで物と共に着陸する。という文章にしてもやっぱり頭おかしいとしか言えない行動でありますが、それが絵として流されるとなんか出来てるから出来るんだーとか思ってしまうから困る。無茶過ぎます。だからこそ相手も完全に油断していたんだけども、あまりの無茶さ加減にスタントとして成立しないというか、成功しなかったら死ぬので、漫画表現だから出来る部分であるなあ、という遠い目をしてしまいました。
 二つ目は殺し屋姉妹の日本での滞在先での出来事。色々あって893をぬっころすんですが、なんで一農家があんな物騒な武器持ってたんだろうか。ガンスミスなんだろうか。というかあの刃物、ぱっと見カッコイイし決まり方も決まってたけど、折り畳み式で人をさっくり切れるくらいの力入らないんじゃないですかねー! まあ、映画の刃物は超切れるから、あの刃物の切れ味が鋭過ぎたんだろうという事にしておこう。というか銃の形してる意味無い!
 三つ目がなんとかなんとか抜刀牙ー! ならぬ、わんこによる銃撃。命がけの戦いをしている犬が拾っていた銃の引き金を引く形になるんですが、でも、偶発にしてもわんこで銃撃てる訳ないんではないか。それ以上にこの描写だと撃とうとして撃ってるんだけどそれどうなの、おかしくね? と思うんだけども、実際撃ってるし、出来たんだよ! という顔になってしまいます。本当に無茶であります。
 さておき。
 無茶はありつつも、でも基本としては銃撃戦、それも魅せる銃撃戦というものに対して、あくまで真摯にやっている部分もちゃんとあります。その辺の魅せ方は本当に勉強になるし、そしてやりたいと思っていた事が今できている、という伊藤せんせの充足も感じるので、これを足掛かりに、『ワイルダネス』と『ジオブリーダーズ』の再開にもっていってくれたらいいなあ、と思うのでした。