感想 キキ 『ビビッド・モンスターズ・クロニクル』1巻


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ビビッド・モンスターズ・クロニクル 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

 大体の内容「いざ行かん、ビビモンの世界に!」。牧野夢子さん15歳。ある理由によりMMOを始めてみんとす。そのドタバタと豪運の物語が、『ビビッド・モンスターズ・クロニクル』(以下ビビモン)なのです。
 MMO物というのはわりと昔からありますが、昔のやつは現実に侵食すると言うか、そこで死んだら死ぬとか物騒この上ない物が、その方が物語のインパクトが強いのもあって多い印象でしたが、この漫画はそういうのねーから! というMMOを普通にプレイする漫画であります。ビビモンは架空のMMOですが、その分ちゃんとどういうものかというのを折々で説明されています。夢子さん、ビビモンの中の名前でボン・キュ・ボンさんがこのゲーム素人なのも、それを入れる為の手管として十二分に活用されていますし、それなりにやっているあずきさん、ビビモンの中の名前であんこさんという師匠役がつくのもまたその手管の内。これでドタバタしながらこのゲームがどういうものかを説明する形が整っていると言えましょう。
 で、このビビモンが意外と面白そうなんですよ。最初にお付のモンスターを作れるというのがあって、それがユーザーの描いた絵を参考に作られる、というのが中々いいんですよ。MMO違いますが『ラクガキ王国』とか思いだすものです。そういうのって、愛着がわくんですよね……。さて、その上でどういうタイプか、魔法か攻撃か、というのが決まるっぽいのも面白そう。夢子さんのは絵の読みこみ方向が逆で奇怪なオブジェめいてましたが、夢子さんのキャラクターが剣士系の前衛職で、ビビモンが魔法系の後衛職、というので相性がいいのが良かったです。後で出てくるキャロライン=チェンバー(ズ)*1さんはどっちも後衛職で苦労してましたので、そういう部分もちゃんと見せるのも上手いですヨネ。さておき、更に職種から上級職への派生があったり、更にレア職もあったりと育成面でも楽しそうに見えます。隠しジョブ情報がwikiとかにねーらしいというのもまた。どんだけレア職なんだそれ。でも、それを追い求めるチェリムさんみたいな人も、というのがこのゲームの裾野を広げている感じでやはり好感触です。また、キャラクターの動きの幅が意外と大きいみたいなのもいいなと。漫画ゆえにゲームの標準動き越えてるんじゃ、という場面もあるにはありますが、それはゲームとリアルが脳内で交錯した感じではないか、という好意的解釈も出来ますし、実際にかっこいい踊りという動きが標準搭載されていて、あずきさんから教わった夢子さんが実際にそれしてみたりするとかもありますし、またNPCが妙に大仰に動いてみたりするのも味わい深いです。そこに力入れてるわりにそこは案外手抜きマップだったりするのもまたいい味わいです。そこは力入れなかったのかよ!
 さておき。
 この漫画を重層的にしているのは、現実とゲーム世界とが明確に分かれていることです。現実は現実、ゲーム世界はゲーム世界。当たり前と言えば当たり前ですが、その分かれているがゆえにゲーム世界の人間関係が現実での人間関係に影響を与えているのがいいのですよ。特に、夢子さんとあずきさんは同じ学校のクラスメートである、というのがわりと初期に発覚し、夢子さんがあずきさんとするっと友達になる、のはいいんだけど現実でのあずきさんはゲーム世界でのあんこさんみたいにハキハキしてなくて、というか引っ込み思案で、というある意味常道がぶちこまれますが、現実世界で喋るよりもゲーム世界で入力する方が早い、とかこの手としてはこれまたよくあるのを、でも目の前にいるのにゲームの方で、とかやっているのが面白みであります。また、現実で言えなかったことをゲーム世界ではぶつけられる、というのもいいものでありました。目の前に居るんだから口で言えよ! とツッコミがしたいけど、でも一応言えるには言えているので、貯め込むよりはましなのか、とか幻惑させられますが。
 他に言うとキャロさんこと赤音さんの現実とゲーム世界でのギャップもまたいいですね。こっちはゲーム世界では高圧的な態度ですが、それはゲームに慣れてないからこういう反応してしまうというだけで、実際の赤音さんは委員長気質でいい子である、とされるのがまた。よく余韻なく分かれるけど、それもどういえばいいのか分かってないから、というのがまたおかしみであります。この辺は素の状態でやっている豪運が取り柄の夢子さんとはそれぞれ違う対比でやっている、という感じですね。この辺のテクニカルさを、しかし基本的にはゲームを楽しくやっているだけと見せるのが、この漫画のいい手管でありますよ。果たして、この漫画は今後どうなっていくのか。それを見守りたいという想いを綴って、この項を閉じたいと思います。

*1:表示される名前の限界数を超えててズが入らなかった。