ネタバレ?感想 漫画フクダイクミ 原作:カルロ・ゼン『明日の敵と今日の握手を』1~2巻

明日の敵と今日の握手を【電子単行本】 1 (ヤングチャンピオン・コミックス)
明日の敵と今日の握手を【電子単行本】 1 (ヤングチャンピオン・コミックス)

明日の敵と今日の握手を【電子単行本】 2 (ヤングチャンピオン・コミックス)
明日の敵と今日の握手を【電子単行本】 2 (ヤングチャンピオン・コミックス)

 大体の内容「正論モンスター、自覚ありで火薬庫に」。ハラルド・ウィルストーンはドラゴンフライ皇国海軍中将。人呼んで正論モンスター。ドラゴンフライ皇国が二つの他国家の大勢力の間で揺れ動いている中、その二大勢力のぶつかりの影響で、その片方の勢力、『協商』のど真ん中に左遷されることに。しかし、彼はそれを好機と思っていました。外からは手が出しにくかった『協商』内部に食らいこめる、と。
 ということで、外面と外交手段と搦め手と政治的手腕にひたすら優れたハラルドが、『協商』にどう食らいついていくか、という話になると思うのが『明日の敵と今日の握手を』なのです。
 だがちょっと待ってほしい。その下準備の為の一話の流れがこの漫画の派手な戦闘の部分の大半を担っているというのはありなんですか!? となるところです。戦争の見栄えは戦闘でしょう!?
 なのですが、とにかく軍事に対して並々ならない手腕を持つカルロ・ゼン先生の魔技により、その戦闘という派手な部分を全くないないしてもやっていける。そういうのを見せつけられるのがこの漫画です。
 戦闘はほとんどない、荒事もちょっとした示威行為くらいなんです。では他に何があるか、というと相手の弱みをひたすら突くことで自勢力にどんどん周りを巻き込んでいく手管です。
 その手腕がいきなり発揮されるのが、『協商』にあるドラゴンフライ皇国の大使館の風紀粛清。あまりに相手の国に慣れ親しんでしまっていたため、電信部が人がおらずガラガラである、というのを見て速攻でそこに弱みを見つけ、それを大使館長に叩きつけるのです。
 こっからはもうハラルド劇場の幕開けで、相手の弱みをがっつりつかみきって、自分の行動の自由と、大使館を顎で使えるようにします。ここの流れが鮮やか。ひどい言葉で恫喝とか全くしない、紳士的な態度で完全にマウントをとっていく様は美しいまであります。副官として随従するアメリアさんではないですが、すごい時代のすごい仕事だよ、となってしまいました。
 以後も、自分の使えるコマを増やしつつ、情勢を掴んでいくムーブが連発されますが、果たして目的はどこにあるのか、というのがちょっと謎です。ハラルド、あまりに我欲がないというか、何の為に手駒を増やしたりしているのかがまだ分からないのです。あくまで国の為なのか、もっと大きな目的があるのか。
左遷されるように仕向けてはいたので、やはり何か『協商』側に入ってする目的があるとは思うのですが……。
 さておき。
 上があまりに無茶をしようとしている可能性がある中で、副官のアメリアさんは完全に貧乏くじです。ハラルドにひたすら翻弄されるアメリアさんの不憫を見るのもこの漫画の楽しみです。
 が、ハラルド、副官となるのだからどんどん私の手管を覚えたまえ! と言わんばかりに色々な行動をアメリアさんに見せるので、アメリアさん、2巻中盤で既に朱に交われば赤になっています。ハラルドが正論と手管にぜんつっぱした性能なので感情がいまいちわからず、なのでそこにちょっと感情がある人が補佐に欲しい。なのでそこにアメリアさんが抜擢されているのですが、ハラルドの手管に感情の操作が乗ったらどうなるか、というある意味最強の政治モノが生まれる方向性もありやもしれん。という状況です。大使館の不祥事を、大使館ではなく報道に載せればいい、という考えをアメリアさん出してきた辺り、本当に化け物が生まれる可能性を見せつけられます。どこ行くんだこの漫画……。
 という感じで、派手なドンパチはないものの、それ以上に刺激的な論理と手管のムーブメントが見られる。戦いとはドンパチだけじゃない、というのと、ある種政治的しがらみから解放された怪物が辣腕をふるったら一体どうなってしまうんだ? その答えが見れるかもが、『明日の敵と今日の握手を』なのです。